異世界編 2-57
魔獣を発見。ディオさんとナギ殿にばれないように風の結界を張って対処する。
……いや、もうディオさんにはばれちゃっているかもしれないけれど、それでも夜なんだし、極力睡眠の邪魔はしない方がいいよね。
魔獣は私の張った結界に気付くこともなくどこかへ行った。ちなみにそれは虫のような魔獣で、みていてあんまり気分の良いものでは無かった。
……昔と比べてああいうのが増えたね。魔獣を生む魔力が全体的に澱んでるのが原因かな?
まったく。アリバっさんももう少しまともにやってくれたって良いと思うんだけどね。たしかにアリバっさんにとってはちょっとした遊びでこの世界を作ったのかもしれないけど、私達にとってはこの世界がなくなったら消滅しちゃうんだからさ。
よくある、自分で拾ってきたんだから自分でちゃんと世話をしろ、ってやつかな? この場合は拾ったんじゃなくって作ったんだけど。
「そういえば、風を使って飛行はできないのか?」
歩いていたディオさんが、ふとそんなことを言った。
「とりあえず、何もない状態だと難しいと思いますよ? やるんだったら……そうですね、丈夫な板の上に乗って風に乗って滑るとか、あとはグライダーみたいな物を作れば飛べると思いますけど?」
確かに、できないことはないだろうけどそっちの方がずっと楽だね。
……ところで、グライダーって…………なに?
そう思っていると、私のかわりにディオさんがその事を聞いてくれた。
「グライダーとはなんだ? 話の流れから飛行に必要なものだと言うのはわかるが、どんな物かがわからん」
ディオさんの言葉に、なんでかナギ殿はビックリしたような顔をした。
「…………ディオさんでも、知らないことってあるんですね……」
「ナギ殿。ナギ殿は私のことをなんだと思っているのだ? 私だって人間なのだから、知らないことの一つや二つ、あっても全くおかしいことは無かろう?」
ごめん、私はおかしく感じた。そしてたぶんナギ殿もおかしく感じてると思う。
「あははは……グライダーって言うのは、動力のついていない滑空するだけの羽根みたいなもの……かな?」
「……ふむ。つまり滑空機か。それなら作ることができるぞ。前に母さんの研究所にあったのでな」
ディオさんのお母さんって凄いね。いったいなんでそんなものを作ろうと思ったんだろうか?
……けれど、私はそんなものの存在は知らないよ? 風の精霊王である私に、風のあるところで隠し事なんて………………ああ、そう言えばディオさんはあの大陸の出身だっけ。あそこの結界の中身は全然わからないんだよね。それならあり得るかな。
ナギ殿にグライダーの話を聞いて、母さんのところにあった滑空機のことを思い出した。
確かあれ単体で飛行することはできないが、風の魔術を使えば飛行も可能になるんだったか。
それがあれば移動が楽になるし、逃げるときにも楽になるだろう。特に地上で強い獣や、人間相手でも。
そう考えたので、作ってみた。あまり上手くできたとはいえないが、形だけなら完璧だ。
「使えるんですか?」
「さあな。だが丁度良いところに風の魔術を使えて、なおかつ落ちても死なない奴がいるぞ?」
私とナギ殿は同時にウルシフィの方を見る。少しばかり驚いているようだったが、私には関係無い。
さあ、実験開始だ。
飛べるようだったので、私もやってみた。
初めは中々難しかったが、慣れれば大したことはない。
全く同じもので私の隣を飛んでいるナギ殿も初めは緊張しているようだったが、今ではのんびりと飛んでいる。
「これなら、あと二日でサノカッキまで着くだろう。かなり時間の短縮になったな」
「ほんとは、あとどのくらいかかるはずだったんですか?」
どのくらいと言われれば、まあ、歩いての話だな?
「一週間ほど余裕を持って一月といった所だな。途中に荒野があり、そこでは食料や水の供給がないのでその周囲を円を描くように作られている町を経由していくつもりだったから遅かったが、この速度なら食料が切れる前に荒野を抜けられる」
それに、これは早くしようと思えばかなりの速度が出るようだし。
「は、速いですね……」
「ちなみに、陸路でも走れば一週間はかからないと思うぞ?」
『そうそう。ちなみにその時は私も風で背中を押すからいつもよりもう少し早くなるし、楽になるよ?』
ナギ殿と私、それにウルシフィの三人での初めての飛行体験は、それなりに有意義なものになった。
………大陸を渡る時にも使えなくはないだろうが、流石に疲れるし距離が遠すぎる。辞めておくのが無難だろうな。
それにこれだと体が固くなる。すぐに戦闘がある時に長時間は使えないな。
異世界人初の長時間飛行。だからと言って特になにかあるわけではない。