異世界編 2-54
活動報告にも書きましたが、15日にまた十二話更新やります。
二週間後。私達は少し遅れたが船に揺られて水の大陸の港町、ケイルに向かっていた。
私はあの大陸以外のことはよく知らないのだが、なんとも運のいいことに情報に関しては素晴らしいソースがすぐ近くにいる。
『もしかして私かな? だとすると少し嬉しいね。ディオさんが私を頼ってくれることなんてほとんどなかったし、頼ってくれたとしても結構どうでもいいことばっかりだったしね。薬草の生えてるところを教えたりとか周囲の警戒とかストレスの発散とかはっ♪ 衝撃がお腹に響くぅ♪』
……これさえなければもう少し相手をするのも楽なんだがな。放っておくといつまでも喋り続けるから切りのいいところで黙らせなければならないし。
ケイルに到着して初めにやることは、宿の調達だ。これはウルシフィが良い所を先に探しておいてくれたので時間はかからないが、やはり私とナギ殿の二人旅は随分と目立つらしくそれなりの注目を集めてしまっていた。
まあ、そんなことはどうでもいい。慣れない船旅で少しばかり疲れた。今日は早めに休むとしよう。
「…………」
ぽふっ、とナギ殿が無言でベッドに倒れ込む。ころりころりと寝返りをうっていたが、自分が一番寝やすい位置を見つけたらしく動きを止めた。
そしてしばらくすると、ナギ殿から寝息が聞こえ始めた。どうやらナギ殿も疲れていたらしい。
私はナギ殿の髪を撫で、それから簡単な罠を仕掛けて同じように眠ることにした。
『実は水の大陸に着いたのは夕方なんだよね。で、今は夜。眠くなってもおかしくないさ。それと、私はちょっと出掛けてくるよ。カルシフェルが住処を変えてないことを確認してくるからね。あそこは炎の精霊が多すぎて、風の検索が届きづらいし疲れるから直接行ってくるって訳さ。明日の朝には帰ってくるから安心してくれていいよ? ついでに帰ってきた時にはご褒美にほっぺをつねってくれると嬉しいね』
……やれやれ。やはりウルシフィはどこまで行ってもウルシフィか。
目が覚めると、ナギ殿の顔が目の前にあった。いつものことだが、かなり近い。
ナギ殿を起こさないように体を起こし、朝の鍛練に勤しむ。
全身に魔力を流し、その量を徐々に増やしていきながらも外には一切放出しない。そのため魔術師に見られても何の問題もなく、そして広い空間がとれなくとも魔力操作と身体能力の向上が見込めるそれを、ナギ殿が目を覚ますまで続ける。
……サボってしまうと母さんにばれた時に酷い目に合う。何で見てもいないのにわかるのか本当に不思議になるのだが…………まあ、母さんだから仕方ない。
『ただいま帰ってきたよ。おおディオさん、もう起きていたのか、やっぱり早いね。それとカルシフェルの居場所はやっぱり変わらずツェセム火山の火口だったから、丁度そこまで行く途中に武闘大会の開かれるサノカッキがあるよ。あと大会では殺さなければ魔法も暗器も何でもありだってさ。さて、報告することはみんなしたし、そろそろ私のほっぺをつねっへひはひぃ~♪』
かなり強めにつねっているのだが、ウルシフィは嬉しそうな声をあげている。
正直、この趣味は理解できないのだが、誰かに迷惑をかけているわけでもなし、そこまで対応に苦しむことでもなし、少しなら付き合ってやることにした。
……そう言えばここは水の大陸と呼ばれているのに、この大陸にいるのは炎の精霊王なのだな。
『ふぁふぁ、ほえあらかんふぁんっぷ……もう少しつねっててくれても良かったのに。まあ、簡単な話さ。元々私達がいた大陸に、人間達が適当に名前をつけたからそんな風にちぐはぐになっているんだよ。それにアリバっさんは人間に私達の事も精霊の存在も伝えてないからね。仕方ないと言えばしかたないんだけどさ…………そうそう、そう言えばディオさんは知ってたよね? 何で?』
「母さんに教わった。魔力を目に集中させて、なんとなくでも存在しているのがわかるようになるまで……ひたすら修行を………不眠不休で………………」
……ああ、母さんの‘何でこんな簡単な事ができないんだ?’という本気で不思議そうな顔を思い出す。と言うか、言われた。実際に、
「何故できないんだ?」
と。
……けれど私としては、母さんのような人外筆頭と普通の人間である私を一緒にしないで欲しかった。母さんは魔力の集中無しで精霊をはっきりと見ることができるのに、私は……正確に言うなら大多数の人間は、魔力を集中しなければ存在にすら気付くことができないのだから。
……ああ、やはり母さんは人間かどうか怪しいな。母さんだし、仕方無いが。
……さて、そんな当然の事を言っている暇があるなら、もう少し集中できるだろう。
ディオ、炎の精霊王の居場所を知る。