異世界編 2-53
初仕事です。内容は薬草を取ってくること。そしてディオさんとは別行動。
………ちょっと寂しいと思ってしまった私は、随分とディオさんに依存しているのだと思います。
ちなみにディオさんは適当にそこらに居る魔物を狩って報償金を貰う予定らしい。まあ、ディオさんなら心配はいらないですよね。むしろ魔物の絶滅が心配です。魔物といっても(ゴーストやグールなどを含む一部を除いて)ただの動物と同じようなものらしいですし。
薬草は結構簡単に採ることができた。何体か魔物ともであったけれど、ちょっと睨み付けたらすぐに逃げ出してくれた。怪我はなく、勿論疲れもほとんどない。
……よくある異世界トリップ物でも、ここまで人付き合いが少ない『勇者様』も珍しいですよね。
私が知り合いと胸を張って言えるのは、ディオさんとウルシフィ。以上。
……想像以上の少なさに、少し落ち込んでしまった。元の世界では友達も結構居たんだけどなぁ……。
……まあ、良いです。今はそんなことを考えている時間ではなく、初めてのお仕事の時間です。こう言うと少し前に見たテレビ番組を思い出しますね。
気をとり直して立ち上がり、ギルドのあるバラハッラに向かって歩き出す。ギルドカードがあれば普通に入れるし、面倒な手続きも必要ない。しかもギルドに関わる宿屋の料金が少し安くなる。良いこと結構一杯ですね。
「はい、これが報酬の銀貨一枚と銅貨二十枚です」
「……はい、確かに」
手の中にある硬貨の色と数を確認し、私はそれをディオさんに渡された袋の中に放り込む。
中に元から入っていた硬貨と今放り込んだ硬貨がぶつかりあって軽い音をたてる。これで明日の宿のお金はできた、と。他にもいくつか受けておこうかな。
そう思って依頼掲示板の所へ行くが、良さそうな依頼がひとつもない。
安全そうなものは時間がかかるみたいだし、近場で安全なものはもう全部やってしまった。
………あ、雑事掲示板の方を見に行ってみようかな? 確かあっちは安全なものばかりで、一般人で時間がなかったり面倒だったりする事を任せる物だって聞いたし。
『例えば子守りとか、家の大掃除や模様替え、庭の大きな岩の移動に害獣・害虫駆除。そんな簡単な仕事が一杯あるのが雑事掲示板だよ? 当然報酬は少ないけど、それでも時間を食わないのを選べば1日に十個くらい受けることもできるし、逆に時間がかかるのを受けてもそれだけ報酬は上がっていくしね。大抵歩合制か何を何個作って欲しいとかそういうのばっかりだから、まあ悪くはないよ?』
……へぇ。さすがは年の功、色々知ってますね。
ウルシフィの言葉に頭の中で返しながら雑事掲示板を覗き込む。
……飼い犬の捜索、銅貨五十枚。引っ越しの手伝い、銅貨八十枚+α(歩合制)。ラクウルフの群れの討伐、一体半銀貨一枚。ひよこの雄と雌の見分け方を教える、銅貨三十枚。羊毛刈りの手伝い、一体銅貨十五枚、傷によって値段は上下。ハーブを買ってきて、銅貨二十枚。畑を荒らす魔物の討伐、銀貨二枚……。
本当に色々ありますね……よくわからないのも含めれば二百以上。少しビックリしました。
……あ、これなんか良さそうですね。
私が手に取ったのは、簡単な魔術を教えてほしいという依頼。教えてほしい魔術は、周囲を明るくする魔術、飲み水を出す魔術、火をつける魔術の三つ。幸い全部覚えているので後はその人に呪文と魔力の操作方法を教えるだけ。
まあ、いくら簡単な魔術とはいえ失敗すると消滅してしまうので注意が必要らしいけれど、そうなりそうなら私がなんとか抑えればいい。やってみよう。
教える相手は六歳くらいに見える少年。結構物覚えが良くて、十五分で明かりと点火の魔術は使えるようになっている。
後は水を生む魔術だけなのだけれど、どうやらこの少年には水属性の魔力の持ち合わせがないらしい。
さすがにそれで水属性の魔術を使うのは不可能なのでそう言ったのだが、少年はまだそれを認めてくれない。
…………どうしようかなぁ……。
……あれ? つまり、水属性の魔力があれば使えるんですよね?
次の日。水属性の魔力を固めて作った石を飲み込ませたら、少しだけ水属性の魔術を使えるようになった。やっぱり、結構どうにかなるものですね。
依頼も成功しましたし、一件落着です。
森の中に入り、襲いかかってくるもののみを切り捨てる。既に五十以上の魔物を切り捨てているが、血の臭いに惹かれてか次々に魔物が現れる。魔物の体は物にもよるが使えないところはあまりないので全体的に売ることができる。
そのため殺したものを全て運んでいるのだが、母さんや黒蹄と違って影などを使った倉庫を作るだけならともかく、維持するには魔力が足りないため、そろそろ運ぶ量に限界が見えてきた。
……今さらだが、やはりここの大陸の魔物は弱いな。何故強めに息を吹き出しただけで吹き飛んで樹に体をぶつけて骨を折るんだ。その速度で樹にぶつかったぐらいなら、普通少し痣ができる程度だろう。
……やれやれ。虚弱というのは大変だな。私も人のことはあまり言えた身ではないが。
ギルドに狩った魔物を売りに行く。何故か途中であり得ないものを見る目をされたが、理由はわからない。何故だろうな?
「…………え、えっと……少々時間をいただきます……」
「早めに頼むぞ」
ギルドの買い取り受付に居た女は、私が持ってきた魔物の群れだったものを見上げて、ひきつったような顔で笑っていた。
すぐに調査が始まり、時間にして三十分ほどしてようやく見積もりが出たようだ。途中で
「えっと、ラクウルフが七体と、ラズルマウスが十二匹に、……ええっ!フラットスネイクとフラットウイング!? それに……レッサーワイバーンの首ぃ!? 一体どこまで行ってきたのこの人ぉ!?」
という悲鳴が聞こえたような気がしたが、ワイバーンなど倒した覚えは無いぞ。私が倒したのは腕と翼が一体化したそこそこ大きく育ったトカゲだ。全長は八メルト程か。
「……も、もしかして……ひぃ!やっぱり竜の魔石が残ってる!? それもこんなに!? ぎ、ギルド長ーー!!」
「なんだねさわがs……何ぃ!?」
などという言葉も聞こえてきた。実に騒がしいな。
やれやれ。
結局買い取りはすぐに終わり、私の財布代わりの荷物入れは白金貨と金貨の占めるところが幾分増えた。これでこの大陸にいる間の金銭は確保できたな。
さて、今日はもう遅いし、宿に戻るかな。
常識外れのディオ。