異世界編 2-51
港町パラハッラに到着。ここから船に乗って他の大陸まで移動するのだが、少し考えることがある。
「ナギ殿。部屋の格があまりにも下に変わらなければ、安上がりの方が良いと思うのだが」
「そうですね。他にも色々使うことがあるかもしれませんし、節約できる所は節約した方が良いと思いますけど」
うむ。やはりそう思うか。
「二人で一部屋を使うよりも、この夫婦用の一部屋を借りた方が安上がりなのだが、それで構わないか?」
「ふっ!? あ、は、はい!」
なぜそこまで慌てているのだろうな。何度か一つの部屋で眠ったことはあるだろうに。
『いやいや、わかってて言うのは趣味が悪いと思うよ? それに御主人様はそんなに鈍くないし、今回と以前は割と違うんだよ。主に心の持ちようとかがね。あと以前だって普通に寝ていたんじゃなくって少し寝るのが遅かったし、ってなんだい? また縛り付けて鞭打ちでもしてくれるのかな? そんなことをされたら私は涎を垂らして喜ぶよ?』
そんなことをした覚えはないが、とりあえず黙らせるか。
全く、この変態は種族的に回復も早いし丈夫すぎるな。粉々にしても数分で復活するとは……。
まあ、自称だからどこまで本当かは知らないが、あり得ない話ではない。
「誰が御主人様だ誰が」
『かはっ♪』
船の出港まで二週間ほど時間がある。一月に一度の機会を逃せばまたしばらく待たなければならないので、予約はしっかりと。
ナギ殿と夫婦として一つの部屋をとった時の相手の反応は、凄まじいまでの苦笑いだった。
恐らく私を少女趣味だと思っているのだろうが、この場では一応違うと言っておく。その時には言えなかったのでな。
ちなみに私の初恋の相手はハヴィ姉さんだった。ただ、ハヴィ姉さんはそういったことに全く興味が無いらしく(私の家族は私を含めて皆そうだが)、そういった話を聞いたことがない。
一応子作りやら何やらの方法は母さんから聞いているし、何度か実践もしたので理解はあるが…………修行で忙しく、そういったことをする機会と言うものがとても少ない。
……まあ、私としては一向に構わないが。
「ところで、船が出るまでどうするんですか?」
「まあ、特に決まってはいないが……適当な宿に泊まり、時間を潰すことになるだろうな。どこか行きたいところややりたいことはあるか?」
私がそう聞くと、ナギ殿は少し考えてから首を横に振った。特に行きたいところは無いらしい。
そういうことで、なら私の用事に付き合ってもらうことにした。
……これには一応ナギ殿も関係しているので付き合ってもらうと言うのはおかしいかもしれないが、およそわかれば構わないだろう。
行き先はこの世界に多くの拠点を持つ冒険者ギルド。その内の一つに登録をしておくだけで簡単な身分証明書の出来上がりだ。
本来ならもう少し早めに取っておくべきだったのだが、ナギ殿の経験が圧倒的に足りなく、あっという間に騙されてしまうということが考えられたので先送りにされてきた。
しかし今は僅かとはいえ経験も積むことができたし、甘さもかなり捨てることができるようになってきたということもあり、メリットがデメリットを越えたために登録しようという流れになった。
「大丈夫なんですか?」
「なに、長い間ここに留まるわけではないし、ランクを無茶にあげなければ気にされることもない」
「………けど、ディオさんって有名なんですよね? そこから話が広がっていくなんてことは無いですか?」
ふむ。なんとか思考を止めないことができるようになってきたな。良いことだ。
だが、私がその程度のことを考えていないわけが無いだろう。
「無いことはないが……知らないだろうが、私の名は‘ディオ’で定着しているのでな。本名ならわかる者はまず居ない」
「……………それ、悲しくないですか?」
「必要な時に必要な相手に理解されていればそれで構わん」
とりあえず、母さんとハヴィ姉さんとプロト姉さん、そしてナギ殿といった所か。後は知られていなくとも一向に構わん。
ギルドに行って、登録をする。よくある魔力を計る道具や使える属性を調べる道具等はなかったので、ある意味では目立つことはなく終わった。
けれど、やっぱりディオさんはなにもしていなくても目立つ。なんといっても、かっこいい。
受付のお姉さんに話しかけたときも口調は丁寧だったし、声も低めでよく通る。嫌味な雰囲気も無いし、知られてはいないだろうけど料理も上手。そして普通にかっこいい。注目されるのは仕方ないかのな。
……けど、それはやっぱり必要ない相手にまで注目されちゃうってことで………私とディオさんは今、酒場と兼用になっている宿屋の一階で見知らぬ三人組に絡まれています。
……って言っても、私もディオさんもほぼ完全に無視しているので向こうが一方的に騒いでいる状態ですが。
……ん。この世界のお酒って、あんまり強くはないですね。流石に十杯も飲んだらくらくらしそうですけど、このくらいの強さなら二~三杯くらい飲んでも問題なく行動できると思います。
『あ、そう? ちなみに強いお酒を飲みたいんだったら私が持っているのをいくつかあげるよ? どうせ私は何十年に一度位しか飲まないし、飲む量も少しだけだし、あんまりお酒は好きじゃないしね。お酒よりミルクの方が好きだよ? 食べたり飲んだりする必要は全くないんだけど、どっちも必要は無いって言うだけですることはできるし結構好きだからね。ちなみに一番好きな食べ物は風竜ステーキだね。風属性が強いと私の舌は満足するのさ』
別に強いお酒を飲みたい訳じゃないし、ウルシフィの好みも聞いてないのでスルー。一応頭には留めておくけれど、恐らく思い出すことは無いだろう。
…………ああもう周りが五月蝿いですね。誰が子供ですか誰が。
……いえ、確かに私成人してませんけど、これでも十七……もう十八? なんですから、子供扱いはあんまりしないで欲しいです。
寺島渚のちょっとした不満。