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異世界編 2-46

 

私の言葉を聞いたディオさんは、いつも通りの表情の薄い顔で私を見ている。

初めは何を考えているのか全く理解ができなくて怖かったけれど、今ではただ表情に出にくいだけでちゃんと感情もあるし、すごく優しい人だとわかっているので怖いと思うことはなくなった。


けれど、今の私はいつも通りのディオさんがとても怖い。


私がこんなことを思っていたと知られるのが怖かった。実はディオさんも私の事を救世主としか見ていなくて、それを上手に隠しているだけだと思うと怖かった。


私が支えにしていたと知られるのが怖かった。もしそれが鬱陶しいと言われ、私から離れていってしまうかもと考えると怖かった。


この気持ちが全て仕組まれていたものだという可能性が怖かった。私の事を裏で嘲笑っているのかもしれないと思うことが、そしてその可能性をけして否定できないことが、心の底から怖かった。


……それでも、一度言ってしまった言葉は戻らない。それは零れた水が戻らないように。

時計の針は戻せても、進んだ時間は戻らない。世界が砂時計ならひっくり返せば戻るけれど、砂時計じゃない世界では何を言っても無駄でしかない。


私は怯えながらディオさんの言葉を待つ。頭の中では悪いことばかりがぐるぐると回る。



―――ディオさんに捨てられる私。手を伸ばしても声をあげて懇願しても、ディオさんは私を振り返らずに歩き去っていく。


―――ディオさんが嘲笑っている。笑顔でありながら、私を都合のいい物だと嘲笑っている。愚かな私はそれに気付かずに、楽しそうに笑っている。


―――ディオさんが私を殺した。使い物にならないと言って、首をはねた。また王宮で召喚された誰かに優しくしている。優しくされているその子は幸せそうだけれど、きっといつか私と同じように首をはねられる。



……そして、ディオさんが私に向かって口を開く。


「初めから予想していた」


「………………へ?」


予想外の答えに、私はつい間の抜けた声をあげてしまった。


「始めに全身を見たときに、あまり体を動かしていないことはわかっていた。それに加えて戦闘に関する知識があまりにも少ないことから、相当平和な世界に暮らしていたことも予想はしていた。無論、人を殺したことが無いことも」


淡々と話し続けるディオさんに、ふと怒りが沸いた。


「なら、どうして私に殺させたんですかっ!!」

「ナギ殿が本当に必要な時に剣を振れるようにするためだ」


激昂した私の叫びに冷水をかけるような声で言葉を返された。


「こんな夜盗など、この世界のどこにでも居る。その時に私が必ずナギ殿を守れるという保証は無い。だから今回、確実に守れる時に練習として殺させた」


私の頭が徐々に冷えていく。ディオさんの言葉はいつも通りに冷たく、それでいて優しい。

分かりにくくはあるけれど、やっぱりディオさんは優しすぎるのだと思う。


「殺した相手の事をどうしろとは言わん。背負って行くのも捨てて行くのも好きにしろ」

「……ディオさんはどうしてますか?」


私がそう聞くと、ディオさんは不思議そうな顔をして答えをくれた。


「私は何とも思わんさ。初めから悪いとも思わんが、私から態々殺そうとしたことは食事にするとき以外は無い」


―――ああ、やっぱり違うんだな。


私は当然のようにそう言ったディオさんを見てそう感じた。


確かにその通り。今回私達を襲ってきて、殺そうとして来たのは向こう。私の常識では殺しては駄目なのだけれど、この世界にそんな法は存在しない。

そんなものがあっても役に立たないし。魔獣なんかが普通にいるこの世界でそんなことを通していれば間違いなく私はその時にパニックをおこしていただろう。

最悪、何もできずに死んでいた可能性も否定できない。


だからこそ、私は思う。


「……ディオさんは、やっぱり優しいですね」


そう呟くと、ディオさんは心底訳がわからないという顔をした。


「そんなことは無い。私は私のやりたいようにやっているだけだ。今ナギ殿と一緒にいるのも、騎士団を辞めたのも」


そう言っているディオさんは、表情の薄い顔に苦笑を浮かべていた。

私はそんなディオさんに、つい笑ってしまう。



―――ああ、なんだ、こんなに簡単なことだったんだ。


私はきっと、ディオさんに依存している。


そして、それと同時にディオさんに恋をしている。


それは助けてもらったという現状からの勘違いかもしれないけれど、今の私にとってはそれが真実。


………うん。それじゃあ、言ってみようかな。私の思いをここまで暴露しちゃったんだし、勢いがないと多分ずっと言えないから。


私は深呼吸をして、ディオさんに向き直る。


私の顔は赤くなっているだろうか?

耳まで真っ赤になっていたりして。

ディオさんは私の思いに気付いているのだろうか?

もしかしたら、さっきみたいに予想されていたりして。


……そうだとしたら、少し、恥ずかしいな……。


…………あ、でも、これを言ったら私とディオさんの関係は変わるんだろうか?


今のままでも不満なんて何もない。時間があれば話をして、なかなか疲れない体でこの大陸を歩く。時々盗賊が出るけれど、私達なら大丈夫。

人を殺すことにはまだまだ慣れないけれど、きっと今度からはもう少し楽になる。

食べ物に困ることも全然無いし、ディオさんと二人というのも問題じゃない。


……じゃあ、このままにしよう。きっとさっきの私はどうかしてたんだ。

このままの幸せが続くなら、それでいいかな。


…………今は。




「……あの、ディオさん」

「どうした? ナギ殿」

「私の考えていたこと、わかります?」


私がそう聞くと、ディオさんはやれやれと大きく溜め息をついた。


「……よく言われるんだが、私はけして全知でも全能でもない。ただ、少しばかり頭の回るだけの人間だ。他人の考えなど予測以外はできんよ」


……ほんとかなぁ………?


「本当だとも」


そっか。


………………あれ?




  寺島渚の依存と初恋。



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