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異世界編 2-39

漸く異世界2-の主人公が出揃いました。


 

…………ゆっくりと意識が浮き上がる。

いつ眠ったのかの記憶はない……と言うか、この前に見たのは…………



  ――いきなり現れる銀色――


  ――誰にも気づかれずに私を引き摺り寄せる銀色――


  ――助けを求めて手を伸ばしても、誰も私に気付かない――


  ――そして、私は銀色に飲み込まれ―――――



「――――っ!!」


声にならない悲鳴をあげながら、私は飛び起きた。




「――起きたか」


飛び起きた私の耳に始めに届いたその声は、今までに聞いたことのない響きを持っていた。

しかし、聞いたこともないはずのその言葉が、なぜか理解できる。日本語に聞こえるわけではなく、その言葉をその言葉のまま聞き取り、そして意味が理解できてしまう。


「……随分と落ち着いてるな。もう少し騒ぐものだと思っていたが」

「……騒ぎたいですけど、騒ぐより先に私がどうしてここにいるのか、ここがどこなのか、とかを聞きたいですね」


そう喋ってから気付く。私はなにも考えずに日本語で話したつもりだったのだけれど、動いた口は全然違う言葉を話している。

そんな私の動揺に気付いていないのか、はたまた気付いていて無視しているのかはわからないけれど、その男の人は落ち着いた声で話を続けてくれた。


「……まず、自己紹介から始めようか。私はダイオ=カーネル。周りからはディオと呼ばれている。できることなら君もそう呼んでくれ」

「……あ、はい、これはご丁寧に…………私は寺島てらしま なぎさです。ナギって呼んでください」


お互いにペコリと頭を下げて、自己紹介おしまい。


……あれ、どうしよう話が続かない。

何を隠そう私はかなりの人見知りなのだ。今挨拶ができたのが奇跡と言っても良いほどの人見知りで、いつもは話しかけられないように逃げ回ったり、知らない人に話しかけられた場合はすぐに逃げてしまうほど。

そんな私にディオさんのようなかっこいい人とのお話スキルなんて期待しちゃあだめなんです。それは置いておくとして、どうしよう…………。


「……聞きたいことがあるんじゃないのか?」

「ふぁっ!? へ、は、はい!」


あわ、話しかけられちゃった……。


私は慌てながらもなんとか頭の中で聞きたいことリストを作り、そこに聞きたいことを書き連ねて行く。

…………うん、このくらいかな……?


「……それじゃあ、いいですか?」

「ああ。答えられることなら答えよう」


その人は落ち着いた声でそう答えた。




「まず、ここはどこですか?」

「世界名はイグリス、国名はランドリート、王都ファルゼスにある王城の一階の南端にある治癒室だ。召喚の際、ナギ殿は気を失っていたため運ばせていただいた」


私の質問を予想していたらしく、ディオさんはすらすらと答えてくれた。

………って、召喚? 召喚って……あの銀色?


「……召喚って、なんですか?」

「魔術の一種。自らが必要とするものを招き寄せる物で、今回は創造神アリバシーヤよりもたらされた術式を王の命の下、魔術師団が使用した」

「……ちなみに、帰るための術式は…………」


召喚と聞いたときから感じていた嫌な予感が外れてくれることを願いつつ、ディオさんに聞いてみる。

……けれどその願いは届くことなく、ディオさんは痛ましそうな顔で首を横に振った。


「残念ながら、アリバシーヤは帰還の術式は用意していない。呼び出した救世主が目的を果たせば、もしかして……と言うところだな」

「………救世主? ………目的……?」

「救世主とはこの場合ナギ殿のことだ。そして目的とは、魔王の殺害、または消滅になる」


…………ああ、やっぱり。

簡単に言ってしまうと、私はよくある異世界召喚に巻き込まれてしまったらしい。しかも帰るには必ず魔王を倒さなければならないし、ディオさんの言い方だと倒したとしても必ず帰れると決まっていないみたい。

………泣いてもいいよね? 私にしては落ち着いて話を聞いただけでもすごく頑張ったよね?


「……ふぇ……」


あ、涙が勝手に…………。


「……ふぇぇぇぇ…………」


……もう止まんないや。






話をしている途中で泣き出したナギ殿に、私は何をしていいのかわからず呆然としていた。

私の周囲の者達はこのように泣くことなど皆無だったため、どうすればいいのか、どうすべきなのか、全くわからないのだ。

……正直私もあまり泣くことは無かったため、自分が泣いたときにどうしてほしかったかもよくわからない。


……だが、たったひとつだけ覚えている記憶がある。

それは私がまだ小さかった頃の話。何故か夜中に目が覚めて、辺りの暗さが怖くて泣いた時の事だ。

あの時は確か、私の泣き声を聞いて私のところに来てくれた母さんに抱かれていたら、気付いたときには眠っていたのだったな。

朝起きたときに目の前にいた母さんに驚いたものだ。


……そうだな。私にできることはこれくらいだ。


童女のように泣いているナギ殿を、優しく抱き締める。嫌がられたらすぐに放すつもりだったのだが、ナギ殿は逆に私の服を掴んで放そうとしない。

そんなナギ殿が落ち着くまで、私はナギ殿の背を撫で続ける。


……本当に、申し訳無いことをした。

私達の世界の事情に、他の世界の者を巻き込んでしまった。それもこんな弱々しい者を。

本当ならばまだ成人もしていないだろう少女に、私達の世界の全てを押し付けてしまう。そんな私の無力さに反吐が出る。


……ああ。なんの償いにもならないが、せめてナギ殿の事は私が守ろう。

この王都で渦巻く陰謀から、悪意から、護ろう。

そのためには力が必要だ。今のままではまだまだ足りない。もっともっと大きな力が必要だ。

ハヴィ姉さんに届くほどに。プロト姉さんに届くほどに。そして母さんに届くほどに。大きな力が必要だ。

……修行をきつくするか。




いつの間にか眠ってしまったナギ殿を放そうとするが、ナギ殿が私の服から手を放してくれない。


……あの時の私もこうだったのかもな。


私は少しだけ笑って、ナギ殿の掴んでいる外套を脱ぐ。

……騎士団の外套に感謝したのはこれが初めてかもしれないな。

そして近くにあった椅子に座り、体内での魔力の循環を始めた。


…………次はいつ起きることになるのやら。




  一目惚れ(?)したディオの決心。




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