異世界編 2-36
少し書き方を変えました。
叩き上げを(決闘で教官を全員叩き潰して無理矢理)終わらせた。今の私はランドリート王国騎士団の七番隊隊長だ。いきなりの出世だがそれは能力があれば誰もが持っている権利であり、上に上がれないのは自分達の能力が足りていないためだと嫉妬はするが納得するらしい。そして他人を蹴落とす暇があるなら自分を鍛えて力をつけるようだ。
無論能力とは個人の戦闘能力ばかりではなく、指揮能力や策の立案や書類仕事も含まれる。
……なんと潔い国風だろうか。驚きだ。
騎士団の朝は早い。毎朝日が昇る前に目を醒まし、早朝の訓練に明け暮れる。これは強制ではないが、やらなければやらないほど周囲との力の差が離れていくだけだと全員が理解しているため参加しないものはいない。
無論私も参加する。ただし、他の者とはかなり違うやり方だが。
「隊長殿!それはいったい何をしておられるのでしょうか!?」
私がいつも通りに鍛えていると、七番隊の隊員の一人が声をかけてきた。
私はそれにちらりと目をやってから視線を元に戻し、一応説明する。
「体内に魔力を溜めて、外に漏れ出さないように全身を循環させているだけだ。上手くやれば僅かだが魔法耐性が付くし、体力や頑丈さも付く」
……と、母さんが言っていた。母さんはこれを体を動かしながら完璧にやって見せるが、私は完璧にやるならば動きを止めなければできない。
……情けない事だ。
そう思っている間に私に話しかけてきた隊員は私と同じように座り込み、目を閉じてぶつぶつと呟き始めた。
「……体内……魔力を………抑えて………流す…………」
どうやらぶつぶつと呟いているのは私の真似をしようとしているらしい。だが、これは早々できることではない。
まず魔力を使うと言うと、殆どの者が魔術を使う時と同じように魔力を練り上げようとする。
しかしここで大切な事は、魔術を使う時と言うのは必ず魔力を外に出すと言う事だ。
そのやり方では永遠に体内に魔力を流すことはできないし、外に出した魔力はかなり操りづらい。
……無色の結晶の獣の長は当然のようにやっていたが、あれは例外だ。母さん曰く、あれは創造神に匹敵する神だそうだし。
そんなわけで体内に魔力を流す時は、体の外に出す門以外に体内に流すための経路を作ってやらなければならない。強化と殆ど同じだな。
ただし、作った経路の容量以上の魔力を流そうとすると体に痛みが走るし、少なすぎれば効果は殆ど無いので匙加減が大切だ。
朝の調練が終われば朝食となる。しかし食堂で作っているそれはなぜか異様に美味くない。舌が肥えたか?
仕方がないので自作する。材料さえ持ってくれば食堂の厨房を使うことはできるらしいので、遠慮なく使わせてもらう。透き通っていない食事は中々慣れないが、美味いものは美味い。
……料理と言えば、銀の匙亭のタルウィさんは元気だろうか? 元気ならばいいのだがなぁ……。
……また今度行ってみることにしよう。あそこの料理は美味いからな。
隊によって差はあるが、七番隊では昼に見回りと言う名の散歩がある。決まった道を歩くので散歩と言って良いのかどうかは知らないし、泥棒や罪人が居れば取り締まらなくてはならないが殆ど散歩のようなものだ。
「……いや、普通隊長だったらこんなこと下っ端に任せて鍛練でもやってますぜ?」
「そうか。まあ、他は他、私は私だ」
そうだろう? 副隊長。
昼食後は自由時間。ここで騎士団員の行動はおよそ二つに別れる。
一つはひたすら剣を振ったり走ったりしている者達。もう一つは全力で休んでいる者達だ。
まあ確かに剣を振りたい気持ちもわかるが、やり過ぎると筋肉が摩耗したり体を壊したりするのであまりおすすめはしない。その時の体調と当日に行った訓練量から判断しておくべきだな。
ちなみに私は訓練側だ。体をあまり動かしていなかったのでひたすら速く剣を振る。
「隊長、なんか隊長の剣から出てるんですが、風の魔装ですか?」
「いや? ただの丈夫で切れ味のいいだけの剣だ。速すぎて風の刃でも出てるんだろう。いつものことだ」
「……やっぱ化物ですね」
母さんはこれを突きでやっていたんだがなぁ……。それに比べればまだまだ……。
……よし、目標は突きで二十メルト先の木の板を割ることだ。それを目指して頑張ろう。
夜になれば皆眠る。とは言え誰も警戒していないわけではなく、専門に何人もの兵がこの王都を見回り、外からの侵入者への警戒をしている。
私達は専門ではないので夜には眠るが、それでも敵襲などに備えてすぐさま起きて出動できるようになっている。
……明日も早い。速く眠るとしよう。