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異世界編 2-28

 

大会当日。タルウィさん(宿の主人。数日の間に聞き出した)に追加で銅貨十枚を払って弁当を作ってもらった。母さんほどではないが、やはりここの食事は美味いのでやる気が出る。食事はやはり大切だ。

食事が終わり出発すると伝えると、他に客はいなかったのでタルウィさんが見送りに来てくれた。大会に出ることは言ってあるが、何故か異様に心配された。

……何故だろうな?


会場に行くと、受付でEと書かれた板をもらった。どうやら私はそこの予選を受けることになるらしい。

予選の規則は至ってシンプル。多くの者と同時に戦い、残りが四人になるまで倒し続けるのみ。

武器はありで魔術も使えるならば使ってよし、殺人はできるだけ控えて欲しいが禁止はしていないし、およそ考え付く事はやってもいいらしい。

……なんと、買収や事前に雇った相手と組んでの予選突破も構わないという。

禁止事項は、わざと客に被害を向けるような行為や降参した相手への追撃。ただし降参した方も攻撃することはできず、反則行為は即失格となり酷ければ罰金もあるという。

勝利条件は相手の降参、戦闘不能(気絶しても動けて戦えれば続行)、十秒以上のダウン、死亡、それと早々無いらしいが場外。

何故場外が早々無いかと言うと、周囲が透明の魔術障壁で囲まれているからだ。

それのせいで場外になったときには既に戦闘不能になっていることが大半らしい。

……母さんなら楽々壊してしまうのだろうな。あの程度。

そう思いながら大会規則の確認をしていると、やっと予選が始まるらしく大きな声が響いた。魔術で拡声をしているらしい。便利だな。

ちなみに拡声は風属性の魔術で、ムラなく行うには多少の慣れと実力を必要とするもの……らしい。

母さんは狙った一人にだけ聞こえるように拡声と消音を同時にできるらしいが、正直あれはもう化物の域だとしか思えない。なんでそんなことができるんだ?

……母さんだからだな。そうとしか思えない。

……おっと、そろそろ行かなければ。失格になってしまう。


予選が始まった。私を弱者と見たのか、何人も私に襲いかかってくる。

……だが、この程度なら少し前の強盗紛いの詐欺師集団の用心棒の方がずっと強かった。

一人目の手から剣と鞘をもぎ取り、剣の柄で腹に一撃。悶絶させる。

魔力を流し、身体強化。速度も力も十分だとわかったので、精度と思考速度を上げる。

ハルバードを降り下ろしてきた二人目はそのハルバードの柄に鞘を横から叩きつけ、軌道を逸らして間合いの中に入り込む。長柄の武器には接近戦だ。

……ハヴィ姉さんはいきなり武器をどこかへと消して格闘戦で圧倒してくるが、流石にそういった相手はそう多くはないはずだ。武器を使うより素手の方が強いなど反則にも程がある。

あり得ない話ではないので、一応考えには残しておく。

ちなみに何故自分の剣を使わないかというと、この剣は性能が良すぎるのでこの剣の性能頼りになってしまうのは良くないと思ったからだ。たとえ母さんの作品であろうと剣に使われるなど、少しはあるプライドが許さない。

と言うことでもぎ取った剣と鞘を使っているわけだが、それでもなんとかなってしまうのは何故だ? 母さん達を相手にしてそんなことをすれば、漸く三十秒は持つようになったのを二秒まで縮められるのは明白だというのに……。

………まさか、ここに居る全員より母さん達は強い?

想像してみる。母さんが私の代わりにこの大会に参加している所を。

私が倒した者達をいつもの無表情で必要最低限だけ壊して行く母さん。勝ち名乗りを受けてもにこりともせず、さっさと下がって行く母さん。最強だと言われている騎士を近寄れないように遠距離から魔法で攻め続け、倒してしまう母さん。

…………ああ、簡単に想像できた。怖い怖い。

そんなことを考えながら横から不意を打つように飛びかかってきた短剣使いの額と喉を剣の鞘で突いて悶絶させた。

俺はそこまで弱く見えるのかね?






その姿が予選会場に見えた時、誰もが失笑を隠さなかった。

いまだに成人していないだろう子供、それも持っているものは剣が一本だけで鎧すら身に付けていない。そんな少年が参加して勝ち抜けるほどこの大会は甘くないし、参加する選手も弱くはない。

だがそれでも周りの者はそれを止めない。実際に子供が参加したこともあったし、それは周りにとって良い鴨になるからだ。

そう考えたものは非常に多かったらしく、参加と同時に何人もその少年に切りかかっていった。

しかし、今はどうだろうか。その少年は背にある長い剣を抜かず、始めに襲いかかってきた相手から剣と鞘を奪い、それを使って一人も殺すことなく全員を沈めている。

使い慣れていないはずの武器でそこまでの強さ。ならば少年が背中の長剣を抜いたときにはどれほどまでの強さを発揮するのか。

少年は観客と選手達からのそんな視線を真っ向から受け止めながらも最初から最後まで全く精彩を欠くことなく戦い続け、そして本戦へと駒を進めた。

三十二人の本戦参加者の中に、少年の名前が刻まれる。その名前は誰にも読めなかったが、本人が付け加えた言葉からディオと読み方が付け加えられていた。



  炎の大陸、戦の国、ランドリートの大会にて。





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