異世界編 2-25 another ※恐らく帰還ギリギリまで続きます
十五になった日の朝、いきなり母さんに家から放り出されることになった。よくわからなかったが、母さんは私が一人前になったと思っているようだ。
……正直に言って、ちょっとそれはないだろうと思う。
いまだに母さんには片手一本と短剣だけで一方的に負けるし、プロト姉さんにもハヴィ姉さんにも勝てる気がしない。
家の回りにいる色々な色の大きな獣には一対一でならなんとか勝てるようになってきたけれど、相手が二体以上になると勝率はかなりゼロに近付くし、勝てたとしてもボロボロになるだろう。
そんな私が一人前と言われてもどうしても信用できなかったのだが、母さんの有無を言わせない笑顔に押されて家を出ていくことに。
……自信無いんだがなぁ………。
過ぎたことで悩んでいても仕方ないので、とりあえずこの大陸を出てからどこに行くかを決める。
あまり治安の良くないところだと何があるのかわかったものではないので、この大陸の次に治安が良いらしい三つ隣の大陸のある国に行くことにした。名前はたしか‘ランドリート’。
この国では騎士と魔術師の二つの軍団が存在し、直接的な戦争能力では三大陸最強と言われているらしい。
実際の最強はもうひとつの大陸に存在する魔王の率いる軍が最強だと母さんは言っていたが、あの結晶の獣より強いのがざらに居ると言うことだろうか。
……勝てる気が全くしない。
まあ、今はまだ伏して他の三大陸の国が弱るのを待っているだろうから動かないとは思うが、最悪のことはいつでも考えておくべきだろう。
あと、ランドリートの騎士団と魔術師団だが、非常に仲が悪いらしい。外に敵がいるのにそれで良いのかと思うが、他の国の軍はもっと酷いところもあるらしい。賄賂を用意すればどんな無能でも位が上がり、逆に用意しなければどれ程功績をたてても一兵卒のままといったところもある。
その点を考えればお互いに嫌い合い、反目し合っていても力を見せれば認められるランドリートは良い所なのだろう。
それに丁度もうすぐランドリートで大きな大会があるらしい。剣技大会であり、なおかつそれで良い成績を残せば国軍からスカウトが来ることもありえる。
そして何より賞金だ。なんと白金貨が二十枚。これだけあれば十八年は生きていくことに困らないだろう。
……もし優勝できたら半分は母さんに送ろうかなぁ……。
……いやいやいや、まずはそこに行く所から考えないと。
…………やっぱり、船か?
漁船に乗せてもらって隣の大陸に。すぐに抜けてまたその隣に。それを繰り返すだけであっという間に到着した。途中の船では釣り用の竿と糸と針が貸し出されていて、殆どの者が釣りを楽しんでいた。なぜこんなものを始めたかと聞いてみると、昔々にこの船に乗った少女がキラキラ光る美しい竿で釣りを始め、釣った魚を美味そうに食べていたのを見た船員たちが真似をしたのが始まりらしい。
……何故か母さんがいつもの無表情で釣りをしている映像が頭に浮かんできた。
……いや、まさかな。
ランドリートに到着。さっさと大会に出場登録をしておく。銀貨を二枚払ったが、このくらいは許容範囲内。
大会開始は一週間後の五つ時らしいので、それまでのんびりこの辺りの散策でもしていよう。どうせ宿を探しても大会の見物客や参加者で一杯になっているだろうし。
とりあえず落ち着いた場所を見付けたら剣の手入れでもしておくか。いくら非常に丈夫で異常に頑丈で常軌を逸して頑強だとしても剣は剣。壊れることもあるだろう。そういうことも一人旅の必須科目として習ったので一通りはできる。
……まあ、このあたりでいいかね。
大人びた少年はそう呟くと、さっさと剣の手入れをし始めた。
だが、少年は理解していない。自分の強さを。
自らの周囲にいたのが化け物揃いだっただけで、彼もまたこの世界のものとは思えぬほどに強いと言うことを。
彼は知らない。自分が一体ならなんとか倒せると言った結晶の獣の強さを。そしてその獣たちを作り上げた、自らの母親の強さを。
彼は、何一つとして知らない。