異世界編 2-24
投稿、重装
いえ、冗談ですって。
フルカネルリだ。記憶の資料を纏めては旅に出てを繰り返していたのだが、今回の旅の途中である頼まれ事をされてしまったので、暫く研究室に籠っていようと思う。
《何があったのかナー?》
なに、見知らぬ婦人が死にそうな所に居合わせたら
「息子をよろしくお願いします」
と言われ、受け取ってしまったのだ。
……まあ、別に構わないがな。今度こそ普通の赤子であるわけだし、ただの子供を育てて見るというのもいい経験になるだろう。
『……プロトちゃんはぁ……普通とは、言えないものねぇ……?』
特に赤子の時に知識を植え込まれた辺りがな。
確かに手はかからなかったが、あまりにも手がかからなさすぎて拍子抜けしたものだ。前世の息子はもう少し手がかかった事を覚えているので余計にな。
研究と実験は意識を移した機械の私に任せて、私は新しくできた小さな息子の世話をする。あまりにも才能の無い子供だったのでその才の無さでどの程度の力をつけられるかの実験もできる。
……寿命を削ったり存在を削ったりして一時的に力を得るような危ない薬は使わないぞ? 精々が魔術や魔法の才の無い者に無理矢理余剰魔力を付加する薬や余剰魔力の属性を変換して体を構成する魔力を増やし、身体能力を恒常的に上昇させる薬位しか使う気は無いとも。
……と言うか、最低限プロトかハヴィラック程度の身体能力は無ければここでは生きて行くことができないので嫌でもこの二つだけは使う。でなければ死ぬ。
流石の私でも敵対の意思を見せない他人から預かった子供に理由も無く薬を打つようなことはしない。
《あればやるんダー?》
ああ。
子供がいると時間が流れるのを早く感じると言うのはおおよそ事実であるようだ。異様に早い。
私が作った粥を口の端から溢しながら食べたり、おむつを変えてやったことが随分と懐かしい。
自分で動けるようになってからはまた随分と手がかかる。最低限この島で生きて行ける力を持たせているため移動速度や行動範囲が広く、最終的に楔を体に(物理的にではなく)撃ち込んで常に見ることができるようにしてよっぽどのことが無い限り放置しておくことに。
この島の獣たちはそれが私の息子だとわかっているので手を出すことはないが、小さな幼獣とはたまに喧嘩をしている。その時には好きにやらせるようにして、致命傷を負いそうになった時だけ助けてから叱っている。相手の動きをよく見て、それに合わせて上手く動けるようになってからやれ。できないならできないなりに考えて動け、と。
勿論川で溺れそうになった時や湖に転がり落ちたときにはすぐさま転移で引き上げに行ったし、木から落ちたときには風で浮かせることもした。この後も勿論叱った。自分のできることとできないことをしっかり理解して、できることをやれ。できないことは失敗してもいいように準備をしてからできるようになってからやれ、等々。
ある程度大きくなってからはそういった技術を体に教え込む。主体は対人・対魔物用の剣術。力は人一倍あるはずなのでとりあえず長剣を用意して振らせる。基本の形は私が教えたが、正直あまり自信は無い。なぜなら私は科学者であり、戦闘は門外漢だからだ。
まあ、それでもある程度はできるが。
いつの間にか身長を越された。うむ、大きくなったものだ。昔は私の腕の中にすっぽりと納まるほどだったのに、今では私より頭二つ分ほど大きい。
……それでもまだまだ剣でも魔術でも負ける気はしないがな?
『……経験値が、違いすぎるわよねぇ……♪』
そうだな。まだまだ私の千分の一も生きていないのだこの息子は。
この世界では一般的に十六で成人扱いとされる。
なので、十五になったときに剣と食料と魔法発動体を持たせて見聞に出した。
《……なんであえて十五なノー?》
平気だろうと思っていたし、丁度サバイバルや夜営の仕方、簡単な調理方法と獲物の取り方などを教え終わっていてきりがよかったからだ。
それに私の知ることを色々と教えておいたため、外でも十分にやっていけると思われた。なにしろ結晶獣の成体を一対一で倒すことができるため、国一つぐらいなら敵に回しても力ずくで解決できるだろう。
それでも見せる力は最低限に、時と場合を選んで潜む時は目立たず、やるときにはあえて目を引くようにするなど戦闘の小技と意識も教えた。
あれはけして騎士等という良いものではなく、傭兵や戦士といった戦うものである。
……まあ、そうなるように色々と妙なことも教えてきたわけだがな。
さて、私は暫く退場するとしよう。
付き合わせてすまんな、ナイア、アザギ。
《別にいいヨー》
『……問題ないわよぉ……?………だって、瑠璃と一緒だものぉ……♪』
そうか。