異世界編 2-23
投稿、開始
冗談です
フルカネルリだ。森を抜ける頃には私を追ってくる者はいなくなっていた。何があったのだろうな?
《昨日解体した熊みたいなやつの胃の中に入っていた物を羅列してみテー?》
鹿のような魔物の物だと思われる肉が僅かと、人だと思われる肉がおよそ一人分。
『……わかってて言ってるのよぉ……きっとねぇ……♪』
予想はしていたが、確定はしていなかったのでな。
あの森には様々な物がいた。食肉植物もそうだし、熊のような魔物も角のある兎のような魔物もそうだ。
中には魔法を使ってくる物も居たし、道具を使う小器用な魔物もいた。
……ついでに、若干間の抜けた精霊王も。
《あれはアホの子だったネー》
『……可愛らしい子だったじゃなぃ……♪』
……可愛らしい……のか? あれが?
……まあ、人の趣味に口を出すつもりはないので構わないが。
ああ、それと人間と魔物では魔術の使い方が多少異なるようだ。
簡単に言ってしまえば、人間は精霊を呼ぶ必要があり、魔物は呼ぶ必要がない。ただし呼ばずに使うと多少弱体化するが、人間と違って確実に魔術は発動するようだ。
また、精霊に気にいられるとその属性の魔術が使いやすくなり、さらに威力や無詠唱時の発動確率と威力が大きく上がる。
……ちょうど、今の私のように。どうやら水の精霊王は最後に私に加護を与えていたらしく、あれ以来妙に水の魔術が使いやすくなった。
ただ、魔法の方は私が自力で術式を組んでいるので特に変わることはない。
……あまり使うことは無いが、無いよりはあった方が良いだろうな。
使わないが。
《二回言っター!?》
『……重要なこと、なのかしらぁ……?』
いや、特に重要ではないな。ただの事実だ。
この世界は全体的に治安がよろしくない。何せ、王都ですら堂々とスリやら物取りやら詐欺師紛いの商人やらがいるのだがら本当に酷いと言うのがわかる。
短い間とは言え平和な日本で暮らしていた私から見るとさらに酷く見える。前世の私の生まれた町よりも酷いぞ?
……とは言うものの、そう言った者達が多ければ多いほどに実験素材や情報収集の種になってくれるのだから、あまり文句を言うつもりは無い。私に迷惑の来ない程度に勝手にしていてくれ。
《迷惑が来たらどうするノー?》
勿論実験体にする。今ならば肉体を精霊化させる薬の試験に使うことになるだろうな。
『……へぇ……すごいわねぇ………?』
ただ、精霊化に伴って人格や意識といったものが消失すると思われるがな。
……さて、丁度良い所に来たな。痛くないように注射してやるから、あまり暴れないでくれよ?
こうして私は世界を回る。何度も何度も何度も回る。
そして世界の全てを楔の効果範囲に入れ、私は自らの作り上げた大陸の研究室に戻る。
なにも変わらぬその中で、私は見て回った世界の記録を作る。
題名は【イグリス研究日誌】。この世界の名をつける。
…………さて、一度纏めるまでにはどれほど時間がかかるかな?
見守はある日、ざわりと大陸中の空気が変わったことに気が付いた。
懐かしい存在が、五十年以上もかけてようやく帰ってきた気配。
それを祝福するかのように島の木々は光輝き、魔力をまるで色のついた雪のように降り注がせる。
「……ふにぃ……はぷ。…………ようよう、おかえりなしゃいましぇ……」
それだけ呟き、見守はキラキラとした周囲から身を守るように丸くなって寝息を立て始めた。
帰ってきたフルカネルリに対する見守の反応。実はこれでも最上級。
『……まあ、いつもはぁ……寝たままだものねぇ……♪』