異世界編 2-22
フルカネルリだ。大物が釣れてしまった。違う意味で。
《確かにちょっと違うネー》
『……食べるのかしらぁ……?』
流石に食わんよ。解析はするが。
……いや、食べてみるのも面白いかもしれんな……。
《ダメだヨー!?》
駄目か。ならば仕方ない、諦めるとしよう。
釣り上げた水の精霊をじっくりと見てみる。確かにこの精霊はその辺りに浮いている小精霊に比べて異常なほどの力を持っているが、それでも精霊王と言われると首を傾げてしまう。
「……ん?…おかひいら……」
「……何がおかしいのかは知らんが、そろそろ針を返せ」
それは今も私の釣竿の針にに食い付いているのも理由のひとつだが、それ以前に弱々しいからだ。この世界に来た当時はもう少し強かったような気がするのだが、私の記憶違いか?
《あってるヨー》
『……瑠璃が、強くなったのよぉ……?』
それを含めての話だ。いくらなんでも弱くなりすぎだと思う。このような状態でこの世界の水と水の精霊を統べることができるなら私でも出来るぞ?
……まあ、出来たとしてもする気はないが。
何度言っても針をくわえるのをやめない水の精霊だが、なぜか不思議そうな顔をして私に問いかけてきた。
「どうしてこれを吸収できないんでしょう?」
……ああ、なるほど。確かにそれは気になるだろうな。水の精霊王に従わない水属性の力など初めてだろう。
「ああ、それは釣りの時に水に溶け出さないよう気付かないほど薄い無属性の魔力で覆っているからだ」
……と、言うことは無属性の魔力で覆えば火属性や風属性を使ってもなにも起こらないということなのだが、恐らくなにも寄ってこないだろうと思われるので却下する。
溶岩の中に生物がいるならば使えそうだが。
《いることもあるヨー》
いるらしい。いつか使ってみることにしよう。
「この針を頂けませんか?」
いまだに口の中で針をモゴモゴと動かしている水の精霊は真っ直ぐ私を見つめている。
……まあ、構わないか。この辺りで少しは回復させてやらないと世界が終わってしまう。それはつまらんしな。
「針だけだぞ」
「ありがとうございます!」
水の精霊は嬉々として針をくわえたまま湖の底へと戻っていった。
最後に私に何かをしていったようだが、恐らく私に害はないだろう。
……さて、もう少しここで釣りを楽しんでから出発するか。
《そう言えばサー》
どうした?
《あの針ってまだ無属性の魔力で覆ったままだけドー、使えるのかナー?》
さあな。私に頼まなかったのだから何らかの策があるのだろうよ。
ナイアと話をしていると、竿に反応があった。あまり大きくは無いが、かかったらしい。
貰ったばかりの針をくわえたまま湖の底の私の住処に戻る。これだけの力があればこの世界に存在する水を全て新しいものに変えることすら出来るだろう。
それじゃあ早速、浄化の甘い所を浄化しようと力を振るおうとして、気付く。
……魔力で覆うのをやめてもらうの忘れてた…………。
それに、他の精霊王達に会ったら力を貸してあげて下さいと頼むのも…………。
……………………どうしよう?
……うん、とりあえず皆に伝えておきましょう。特に風の精霊王に。
あの子ならきっと他の精霊王たちと違って自由に動けるから、あの人間に会うことも簡単なはず……よね?
やっぱりクーボケ水の精霊王
『……瑠璃は、まだ上にいるんだからぁ……直接言えばいいのにねぇ……♪』
《だよネー。なんでやらないんだロー?》
気付かないのではないか?……おお、またかかったぞ。
そしてそれに気づいても言わない一人と一体と一柱。