異世界編 2-17
フルカネルリだ。高山地域に竜が棲んでいると聞いたので見に行くことにした。少なくなってきたがやはり夜盗が出てくるが、一人残さず実験台に。今回は虫ではなく植物と混ぜてみることに。
《何になるかナー?》
さてな。
植物には意思がない。そのため魂は人間寄りになり、ある程度自意識を持つようになったが自力での移動は不可能と言う結果に終わった。ちなみに魂だけが人間寄りの樹と言った所だ。意思を強く持てば実をつける時期を多少ずらすことくらいはできるようだが、前にやった虫と混ぜた時に比べてあまり大きな差にはならないようだ。
一応種を採取して一気に育ててみたのだが、どうやら子に意識は発現しないようだ。
……まあ、一応何かの役に立つこともあるかもしれんし、持っておくとするか。
竜と言えば幻想種でも相当強力であり、ものにもよるが言葉を理解し神に匹敵するものも居ると聞いていたのだが…………どうも、先程から出てくる翼竜は知識を持たないただの動物と同じようなものにしか見えない。
『……瑠璃の研究所のぉ………周りの子達の方が、まだ強いわよねぇ……?』
《そうだよネー?》
やはりそうか。
……やれやれ。まあ、これまでの竜は全て東洋竜に翼をつけたような外見だったし、ドラゴンはまた別だと思いたいな。
………思いたかったが、どうやら思わせてはくれないらしい。もしやこの世界には人語を理解できる魔物は居ないのか?
……いや、まだ決めつけるには早すぎる。この大陸のことすら全て知っているわけではないのだから、勝手にそう思い込むのはまずいだろう。
そう考えつつ、目の前のドラゴン………腕が翼になっているためワイバーンだと推測されるそれの吐く炎を止める。
今までは料理と実験の際の火力調整程度にしか使うことはなかったが、炎神の加護を受けている私にこの程度の炎は効果がない。
……さて。これを使ってどんな実験をするかな。始めは解析と記憶の引き出しからだが、できることなら言葉を話せなくともある程度理解はできてかつこいつの記憶に喋るドラゴンが居れば良いのだが……流石にそれは高望みしすぎだな。
……大人しくしていてくれよ? この世界で外に出てからと言うもの、周囲の存在の脆弱さに戸惑っているのだ。逃げ出された場合にうまく加減できる保証はない。
《ま、それだけ命の危険に陥る可能性が少ないんだからサー。そこらへんは我慢してヨー》
わかっているさ。これは私が慣れれば良いだけの話だ。
『……強くなり続けてるのだからぁ……難しいと思うわよぉ……?』
難しいだけで不可能ではないさ。第一、この程度で諦めていたらひたすら学ぶと言う行為を数万年にわたって続けて来たのが無意味になってしまうだろう? 難しくともやってみせるさ。
……失敗した時の相手には御愁傷様と言うしかないが。
山の頂上に張られていた結界をすり抜け、おそらく結界を張る知識があるだろうドラゴンを見上げる。
……ふむ。中々に巨大だな。力もあるし、今までに見てきたワイバーンなどとは違い理性も知識もあるようだ。
体の作りももはや別物と言っても良いほどに違うし、それ以前に存在としての強度が段違いだ。
……とは言うものの、やはりあの神の創造物である以上あの神の最盛期より強くなる事はないだろうし、見掛けから私を見下しているようなので戦闘になってもなんとかなるだろう。
さて、解析するか。これのお陰で解体の手間が省ける。本当なら実験もしたいが、流石にこの大陸の食物連鎖の頂点を切り崩すようなことはしたくない。
後々面倒になる事もあるだろうし、生態系もかなり変わるだろうし良い事など殆ど無い。
……それに、なぜか止めておいた方が良いような気がすることだし。
《たぶんそれ正解だヨー》
『……いつか、何かあるわよぉ…………きっと、ねぇ………♪』
そうか。
小さき者が山にやってきたと聞いた。たった一人であるらしい。
小さき者は魔術を使い、多くの眷属を屠ったらしい。
小さき者は魔術に詠唱を用いず、道具を媒体として目視するのも難しいほどの速度の魔術を使ったらしい。
小さき者はゆっくりと歩を進め、回り道をしながらこの山を登っているらしい。
そして今、小さき者は我の目の前に居る。
小さき者は、小さき者の中でもとても小さかった。眷属に合わせて言うならばまだ五十も生きていないような小さき者は、我をその透き通った黒曜石の瞳で見詰める。
小さき者が我を見つめるのに合わせ、我もその小さき物を見詰める。
小さき者の目は、まるであらゆる物を見通すかのような広さと同時に、見た目通りの幼子のような無邪気な光が宿っていた。
周りで唸りを上げる眷属達を黙らせ、見つめ会う。
しばらくしてふと気が付くと、その小さき者はいつの間にか姿を消していた。
……そろそろ眠るとしようか。あの小さき者もこの山を降りたようだし。
後の龍神、クルエリオスとの出会い。