異世界編 2-16
フルカネルリだ。簡単に作った剣がかなり良い値段で売れたが、今後は売り物に組み込む術式は一つにしようと決めた。これが原因で奇妙なことに巻き込まれては困るからな。
《好きにすると良いサー。キミの邪魔はしないヨー》
『……頑張ってねぇ………♪』
ああ。
王都を出るには朝まで待たなければならないようだが、私は光学迷彩で姿を隠すことができるので普通に空を飛んで王都の壁を越える。この世界の魔術師達は空を飛ぶことができるほど器用ではないらしいので、対空防衛網には全くと言ってよいほどに力を入れられていない。精々が有翼の魔獣や魔物を見付けるための見張り台程度しか存在していない上に、そこで仕事をしている兵もやる気が見られない。
まあ、そのお陰で私はこうして月夜の空中散歩を楽しめるわけだし、全く構いやしないが。
とん、と爪先で地面を蹴って浮かび上がり、それと同時に姿を消す。
ふわふわと浮きながらのゆっくりとした移動は高速で飛ぶ時と違っていまだに浮遊感に慣れないが、たまには良い。
遥か下方に地面があり、遥か上には月が浮く。その中間で私はのんびりと目を瞑る。
……さて、これからのことを考えようか。
とりあえずこの国を隅々まで見てから隣の国へ移動しよう。上空から見た限り、この国を全て見るのに五年もあれば十分だろう。最終手段として上空から大陸全土をまとめて解析すればそれで終わるわけだし、のんびりと十年かけても良い。
そしたら次の大陸へ移ってまた同じように各地を見て回ろう。植物や動物も大陸によって変わるだろうし、地域や食べたものによって能力や形態にもなんらかの差異が出る事もあるだろう。
それらを全て記録し終わったら一度私の研究室に戻り、頭の中に記録したそれを全てなんらかの記録媒体に書き写してからもう一度初めからやり直す。
他のところに行っている間に起きた出来事や変わった動植物を記録しながらまたのんびりと世界中を旅する。それを今回は………そうだな。この世界が自然に消滅するまで繰り返してみようか。
《確実に何百億年ってかかると思うけドー?》
なに、私の寿命は無限だろう? ならばやらねば損ではないか。
それに、ここまで巨大な魔法で作られた世界の終焉を見るなど、中々できないことだ。
実に、興味深い。
《……キミがそう言うならいいけどネー》
そうか。
空を飛んでいる間に襲い掛かってきた鳥のような魔物を解体して解析する。そうしている間に血の臭いに誘われたのか狼のような魔物が群で現れる。
……一、二、三………八体か。解析と解体に二、実験に四、後は……逃げようとするなら逃がすか。
とりあえず、この鳥擬きの解析が終わるまで檻の中で大人しくしていてくれ。どうせ五秒程度の事だ。
狼達は最終的に逃げ出した。囮として四頭が残り、後の四頭は逃がした。
しかし、解析に必要な雄と雌が二頭ずつ残ったので別に構わない。
記憶を引きずり出してどのような場所に住み、どのような餌を食べ、どのような生活をしていたのかを知るのにそれだけいれば十分だ。
……それに、けして敵わないと思ったのか残ったうちの一頭から乞われてしまったしな。
一応、向こうから襲いかかることが無ければもう手は出さない。私は約束は守るぞ?
《嘘はつくけどネー》
そうだな。
フルカネルリ異世界旅行記