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異世界編 2-15

 

フルカネルリだ。日が沈み、辺りが薄暗くなると人通りも露店も少なくなってくる。確かにこの程度の時代では日が沈んでからはもう明かりとなるものは月と星、人工ならば松明と蝋燭ぐらいしか照明器具が無いだろうし、特にこの世界では夜になると活発に動き出す魔物も居るようだし仕方無いと言えば仕方無い。

一応魔法の明かりも在るには在るのだが、そういったものは使い手を選ぶし道具にしても異様に高価であり、王公貴族か大商人ぐらいしか使う者が居ないと言うのが現状だ。

……ちなみに私は夜目が非常に利くため、松明も魔法の明かりも必要ない。

《アザギの悪霊の加護の隠し能力だヨー。闇とか夜とかに強くなるのサー》

ほう、初耳だ。すると他の、例えば邪神の加護や地神の加護にも何か隠されているのか?

《ンー、まだヒミツー》

『……ですってよぉ……ふふふ……♪』

そうか。なら仕方無い。


裏路地に入るとあまり良くない視線が私を舐めるようにして這い回る。何人かに良い獲物だと思われたかもしれないが、手を出してきたらその時がそいつの命日だ。

《体はフルカネルリが消し飛ばしテー》

『……魂はわたしが頂くわぁ……♪』

そしてナイアは知られぬように結界を張る。役割分担だな。

昼に殴り飛ばした数十人(百には僅かに届かなかった)から収集した知識を頼りに夜の王都の裏道を歩く。

この先に見合った金さえ払えば何でも売るという万屋のようなものがあるらしい。それも昼はただの壁にしか見えず、夜になってさらにそこにその店が存在していると確信を持っていなければ知覚することもできないようになっているとか。

……ああ、あれか。確かにこれなら私のような術式が目視できるような存在でも無い限り気付けないな。

まあ、それも私にはなんの効果も無いが。

キィ……と木製の扉を軋ませて中に入ると、そこには様々な魔法道具や魔法を付加された武器がこれでもかとばかりに存在していた。

《おー、沢山あるネー》

『……量は、ねぇ……?』

そのあたりは初めから期待していない。私達がこの世界で暮らしていたあの場所は、魔力が結晶として物質化するような所だぞ? この世界の中であそこ以上に魔力が濃い所など想像できんな。

……私とナイアの体内以外では。

《ボクの体もフルカネルリの体もこの世界じゃ無いヨー》

そうか。なら想像できんな。

……さて、見学するか。面白いものを見付けることができるかもしれんし。


拍子抜けだ。つまらん。

どれもこれも炎の魔石を使った杖だの炎を生む剣だの切ったものを凍らせる槍だのと少し考えれば出てくるようなものばかりだ。もう少し頭を捻って欲しい所だな。

例えば汎用性を伸ばした魔力そのものを小さな固まり(それができなかった場合は鉱石などに魔力を溜め込んで代用する)として、その魔力を様々に変化させることのできるよう術式をいくつか用意して結晶を組み込み、射撃砲撃斬撃打撃地水火風光闇無とその時必要なものに組み換えて使う道具一式や、そうでなくても私の銃の弾丸のように魔法を溜め込んで長ったらしい詠唱無しでも魔法を連発できるようにするなど色々あるだろうに。

さっきの炎を生む剣にしても、ただ炎を纏わせるだけでなく火球にして飛ばしたり固めて攻撃の有効距離を伸ばしたり鞭のように中間距離を埋めたり斬撃を炎と言う形で飛ばしたり突きを外したと見せかけて首の後ろで鎌のように刃を作って首を跳ねるなりと、いくらでも改造はできると思うのだがな。

《あー、ここの人間たちって魔法道具を作った後に手を加えるっていうのをやろうとしないからナー》

……何故?

《さあネー? 何でかナー?》

『……どうしてかしらねぇ……?』

…………理解できんな。

まあ、いい。とりあえずここに来る道中で拾った(夜盗を返り討ちにした時の戦利品)の剣に簡単な炎の術を込めた魔法道具を売って金に変えるとしよう。こういった裏の店はある意味表の店よりもよほど信用が必要だし、いきなり騙すような事は無いだろう。

騙そうとしたところで解析しながらの商談でならば思考程度は十分読めることだし、それを理由に吹っ掛けることもできるだろう。

これかどの程度の価値になるのかで、私の旅のやり易さはずいぶん変わってくる。

……さて、商談に入ろうか。

「店主。買い取りを願いたいのだが」






王都の路地裏にこの店ができてから、かれこれ二十年近くなる。

そんな店の中でその店の店長――バークホルムは暇をしていた。

店を作ってすぐの頃は客なんて冷やかしか、意味もなく偉そうにしている兵隊が税だと言って適当に見繕ったそれらしい名前のものを持っていくかのどちらかだった。

しばらくしてそうした武器を多く売っていると評判になり、実力は無いくせにやたらと偉ぶる貴族がわかりもしないのに講釈をたれていくようなことが増えてから、バークホルムはひっそりと貯めていた金で魔法道具を買い、自らの店を隠した。

実力があるものにだけ見付けることができるように結界を作り、それに気付けないような相手には来店を断るようになってから、この店に来る客はガクンとその人数を減らした。

今では月に一人か二人、顔馴染みが来れば良い方だ。

そんな中で、久し振りに店の扉が軋むような音をたてて開く。

バークホルムはなにも言わずに、入ってきた客を確認して………

目を疑った。

そこにいたのは、十を数えるか数えないかといった程度の少女だった。

ただそこらにいる子供と違い、その瞳には長い年月を生きてきたような深さがある。

その少女は商品の陳列されている棚を一つ一つ物色し、その度に何故かつまらなさそうな顔をする。

時には鼻がくっつきそうなほど商品に近付くこともあれば、一瞬目をやっただけで流すものもある。

だが最後に決まってするのは、落胆の表情。

まるで自分の求めている物では無かった時の子供のような、そんな顔をしていた。

その少女か全ての棚を見るのに使った時間はたったの数分だったが、バークホルムにはまるで数時間のようにも感じられた。

全ての棚を見終わった少女は、やや面倒臭げな表情のままバークホルムの居るカウンターへと近付き、ボロボロの剣と鞘を持ってこう言った。

「店主。買い取りを願いたいのだが」


ボロボロに見えた剣は、バークホルムが長年夢見てやまないものだった。

炎の剣。それならばこの店にもいくつか存在する。

魔法を弾く剣。それも数は少ないがある。

しかし、魔力を吸収し、そして自らの炎の薪とする剣は一つも無かった。

それはそうだ。この世界に同時に二つの魔法を組み込まれた剣は存在しない。伝説と言われる闇剣ロンブルや光剣イジャーヤですら巨大な闇と光の力のみを持った剣であり、魔法を切り払うことができても持ち主の魔力を使わずに特殊な能力を使うことは不可能なのだ。

それが、この剣は外からの魔法を分解して自らの力へと変えることができる。つまり、魔力を持たない者でもこの剣があれば魔術師とも互角に戦うことができる。

確かに魔術師が魔法を使うときには十数秒にも渡る詠唱をしなければならないが、距離さえ離れていればなんの問題もなく魔法を完成させて騎士達を殲滅させるだろう。以前にあった魔術師団と騎士師団の戦いでもそれはわかる。

だがこれさえあればあの魔術師達に一泡ふかせることができる。

バークホルムは、この剣を作った誰かと、この剣を自分に渡した少女に感謝した。



  元・ツェンディ王国騎士団長、バークホルム=レガートのある夜中の客。




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