異世界編 2-14
もうすぐ連続投稿します。
フルカネルリだ。この大陸最大の国であるツェンディ、その王都に到着したのだが、とても気分が悪い。とりあえず二、三人ほど解体してやりたい気分だ。
《なんなら拾ってこようカー?》
……いや、いい。終わった後に自分に嫌気がさすことになりそうだ。
『……あら、そぅ……』
王都と言うだけあって中々に大きなその街は、魔物の襲撃から身を守るためか戦争のためかは知らないが巨大でかつ分厚い壁に四方を固められていて外敵に対する備えは確りとしている。
中央の大通りは活気があり、そこらじゅうで売り子の声や子供の笑い声等が響いている。
……ああ、またか。
懐に伸ばされた手を掴み、手の持ち主を引き寄せて軽く裏拳で鼻っ面を叩く。
腰の入っていない軽い拳でも人は飛ぶらしい。それも常人には視認することもできないような速度で。
先程からもう十二人ものスリの顔面を物理的に凹ませていると言うのに、次々とスリはやって来る。何故だ?
《常人には何が起きているかもわかんないから吹き飛ばされてるって気付いて無いんじゃないノー?》
………ああ、成程。確かにその可能性は高そうだ。
……おっと、十三人目。今度は十に届くか届かないかの子供か。
見た目は私も同じようなものだが。
……さて。そうだとするとどうする? 私としてはあまり目立ちたくないのだが、なにもしないでいるとまたスリが……ほら来た。十四人目。
ここは本当に王都か? だとすると治安が悪すぎるだろう。ここの王族はなにをしているんだ?
…………ああ、そうだった。血筋に胡座をかいて自分達がもっとも偉く、常に正しいと思い込んで気の向くままに生きているのだったな。
一応剣や魔法を習っているようだが、やはり錬度が……十五人目、と。
…………やれやれ。確かにこれならあの魔王が支配しようと思えるかが理解できる。
これならあの程度の軍でも十分にこの大陸の勢力図を魔王の国のもの一色に塗り替えることもできるだろうな。
それに放っておけば勝手に弱りながら肥え太って行ってくれるのだ。中々行動せず自分の身を隠すことに集中するのは良い手だな。
自分達は密かに国力と錬度を高めながら相手が肥大し、国力を低下させながら巨大になって行き、それが最大になったところを見計らって侵攻し、支配する。この時は国の一番上を洗脳するか、自分達の言うことを聞くようにして暴政を行わせ、自分達の手駒に反乱の指揮を執らせて国王を討ち、支配するのも良い。
まったく、よく考えて……十六人目。
……やれやれ。これでは外で眠っていた方が安心だったかもしれんな。
《そうかもネー》
『……でもねぇ……わたしは、ここの方が調子が良いわよぉ……?』
……ああ、多くの人間が負の方向の意識を持ちながら集まっているようだからな。
例えばあそこの商人は安物のナイフに有名な魔法道具師の刻印を押して高値で売ろうとしているようだし、……十七人目。こういったスリや時には強盗が居る上、裏路地には餓死者や腐乱死体が存在し、さらにそれらを食べて飢えを凌ぐような年端もいかぬ子供も居る。
…………極めつけには、我儘な王女とその護衛が偉そうに混雑した道のど真ん中を当然のように歩いてきている。
……おや、王女の護衛にまでスリは居るのか。まあ同じように気付かれる前に殴り飛ばしたが。
ちなみにこの時音はしていない。破壊力を上げるために魔術で物理法則を弄って作用反作用の両方の力を一方に向け、音として散らされる力も集中して打ち込んで居るために威力は倍で消音仕様にできあがっている。当然音速を越えてもソニックブームは発生しない……事はないが、その衝撃すらも威力へと回されてさらに威力が上がる。
《元々力は化物じみてるのにネー?》
そうだな。
……十九人目。やれやれ、このままの頻度なら今日一日で三桁まで行きそうだな。