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異世界編 2-3

異世界編にしては異様に長くなりました。

それと、更新は二日か三日に一度になりそうです。

 

フルカネルリだ。私の研究室ができてから一月。始めは街路樹程度だった隣の樹も大きくなり、今では樹高数百メートル、周囲十数メートルという大きさにまで成長した。

《でかすぎでショー!? 何やったのサー!?》

なに、毎朝太極拳の後に樹に世界から取り込んだ魔力を流し込んでいただけだ。

毎朝毎朝異常な量が注がれていたせいか、この島全体にこの大樹を中心とした地脈を構成してしまったし、今朝注ぎ込んだら大きくならずに全体が宝石のように透き通った。なぜだろうな?

《神木化したんだヨー!》

そうか。見守の住処にふさわしいな。


地脈を利用してこの島に結界を張った。出入りの禁止と内外の断絶。これによってこの島の生物はは独自の進化を遂げていくことだろう。

そして外側の陸には、他の大陸から人間を呼び寄せる。

呼ばれた者は、領主に娘を差し出すのを嫌がって逃げていた老夫婦と娘だったり、無実の罪を着せられて投獄されていた男だったり、盗賊に村を襲われて命からがら逃げ出した兄妹だったり、雪山に一人取り残されていた探求家だったりと、実に様々だ。

ここに呼ぶときも、確りと交渉をしてから呼んでいる。

老夫婦と逃げ出した兄妹は森の中を逃げていた所を霧に迷わせて空間を繋げて呼び、研究室で話し合いをして住むことを決めたし、無実の罪を着せられた男と雪山の探求家は夢の中で話をした。

その他にも多くの者を呼び、たった一月でこの大陸で暮らす者は八千人を越えている。

私が彼らに要求したことは三つ。

平穏無事に過ごすこと。

見守の神の存在を知っておくこと。

そして、大陸の中心の島には立ち入らぬこと。

それだけだ。

《これだけやってれば見守ちゃんが消えちゃうこともないシー、集めた人間たちが争って勝手に減ることもないシー、見守ちゃんの眠りを妨げることも無いネー》

ああ。ついでに私の研究の邪魔をするものもいなくなるだろう。

『……ふふふ……考えてるわねぇ……』

……まあ、色々と欠点はあるがな。

停滞することで魔法は進歩しないだろうし、人口も減りはしないだろうが目に見えて増えることも恐らく無い。

外から断絶しているために私が新たに招かなければ緩やかに衰退していくだろう。

『……あらあらぁ………させる気もないくせにぃ……』

まあ、それなりに苦労して作り上げたわけだし、私から壊す気は無いさ。

『……ふぅん……?』


見守の神木だが、神木になってからも成長を続け、樹高七百、周囲八十まで成長した。

《だからおっきすぎだってバー!?》

仕方がないだろう。私もここまで巨大になるとは思ってもいなかった。

『……しかも、普通の樹がいっぱい生えてきてるわよぉ……?』

その上そっちも結晶化してな。

赤青白緑に黄色に黒。実に色とりどりだ。

《ちなみに赤は火、青は水、白は光、緑は風、黄色は土、黒は闇の属性の結晶だヨー》

恐らくあの巨大な神木に収まりきらなくなった分の力を樹の形にして地脈から放出したのだろうな。

『……そのお陰でねぇ……前からいた虫とか、小さな動物たちがねえ………すごいわよぉ……♪』

ほう? ならば見てみるとするか。


想像以上だ。

草食・肉食問わず全ての生物が結晶のまま活動している。

草食のものは直接結晶の木の葉を、肉食のものは結晶の木の葉を食べた草食のものを食べることによって私の魔力を体内に取り込み、一気に私の作ったこの場に適応したのだろう。

『……適応って言うよりはぁ……』

《……進化って言った方が合ってるヨー》

そうか。






ざくり、と畑を耕しながら、この大陸に来た時の事を思い出す。

始まりは、私達の住んでいた村を治める貴族の視察だった。

いつも通りに働いていた私を見て、いきなりその貴族が、

「そこの娘を差し出せ」

と言い出した。

私は確かに村の中では美しいと言われてきた。しかしそのせいで住み慣れた家から居なくなることなんて、考えてもいなかった。それも、私を家畜のようにしか見ないような相手に嫁いで行くなんて、悪夢にしか思えない。

お父さんとお母さんは私の幸せのためにとすぐさま家を捨てて逃げ出す準備をしてくれたけれど、魔法も使えない、剣も握ったことがない私達が生きていくには、村の外は危険すぎた。

農作業で体力がついていたとは言え、ただの村娘と村人。魔物に襲われればそれまで。

それでも私達が村を出たのは、このままでは確実に不幸になるから。

不幸な生か、幸福な死か。私達が選んだのは後者だったと言うだけの話だ。


結局私達は助かった。魔物から逃げていた時に急に現れた霧に迷うと、そこに小さな家があった。

魔物から逃げるために食糧を置いて来てしまった私達は、ほんのすこし食べ物を分けてもらおうとその家の扉を叩く。

こんこん。

軽く叩いただけでその扉は音もなく開いた。まるで、私達を迎え入れるかのように。

「……入らないならば退いてくれ」

「わひゃっ!?」

いきなり後ろから声をかけられた。慌てて振り向くと、そこには珍しい黒い髪の少女が、見たことの無い白い上着を高級そうな服の上に着て、両手に持った大きな籠にいっぱいの透き通った葉っぱのようなものを入れて立っていた。

「……ふむ。まあ、この大陸に来たということは、何か事情があるのだろう。歓迎しよう」


その少女に連れられて家の中に入る。

その家の中は見たこともないものでいっぱいだった。

「さて、色々と聞きたいことはあるだろうが、まずは自己紹介といこうか」

私達の目の前にことりとからっぽの湯飲みが置かれ、少女の前にも同じものがおかれた。

……あれ? 透明すぎてよくわからなかったけど……なにか、入ってる?

「ああ、見難いかもしれないが一応茶だ。先ほど取ってきたあの葉で淹れている」

「あ、ありがとうございます」

……あれ? 私、口に出したっけ?

女の子の顔を見つめるけれど、女の子は素知らぬ顔で湯飲みに口をつけていた。


それから、あれよあれよと話は進み、私達はここ‘ドトール大陸’で暮らすことになった。

初めは私達と少しの動物しかいない寂しいところだったけれど、いつの間にか人が増え、村もできはじめていた。

以前の生活と違うのは、この世界の創造神ではなく、創造神を打ち破り、この大陸を作り上げたミモリという神を信じることと、近所付き合いがリセットされたことぐらいだろうか。

………最近は、再び周囲とはいい関係を作れてきている。

そして、私達をこの大陸に呼んだあの少女とは会っていない。

「……また、会いたいなぁ…………」

そしたら、いっぱいお礼を言わないと。

助けてくれてありがとう、って。



  逃げていた老夫婦の娘の話。



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