三十万アクセス記念外伝
再開して早々に越えたようなので……
これは昔々の話。まだまだナイアが幼くて、あんまり物事を深く考えなかった頃の話。
暇潰しに他の世界を覗き込む。
それは剣と魔法の世界であったり、貴族が支配する魔族の世界だったり、戦争によって、もしくは災害によって殆どの命が失われてしまった世界だったり、宇宙に進出した人間達による最大規模の戦争中だったりした。
しかし――
「……予想通り、だナー……」
――あまりにも予想通り過ぎて、つまらない。
ずっと未来のことまで予想して、それが外れることなんて殆ど無かった。まるで何度も見て飽きが来たコメディ映画を再び見ているような感覚。
「……つまんないナー」
それでもやることがないのでコロコロと見る世界を変えながらも他の世界を見るのを止めようとはしない。
……まるで平日の昼間に仕事を全て終わらせて暇になった主婦のようである。
しかし、ある世界を見た途端に、ナイアの目が驚愕の色を浮かべた。
「………読めない」
いつもならば有り得ないその状態に、いつもの口癖すら忘れて呟いた。
再び集中して未来の予測を始める。しかし、答えは同じ。
その読めなさは、ある男が中心となっているようだった。
その男が生まれるまでは楽に読みきれた未来が、その男が生まれた途端に形を読ませなくなった。
その事は、娯楽に餓えていたナイアをひどく喜ばせた。
ナイアは、遥か未来のある世界で生まれるはずのその男に夢中になった。
存在するだけで自分の予想を外し、既知だったものを未知へと変えるその男を、まるで愛おしい人を思う少女のように一途に思うようになった。
「んふふフー♪ 楽しみだナー♪」
「キモイぞナイあばぁっ!?」
ゴシャアッ!っとクトゥグアを殴り飛ばし、ナイアは思いを馳せる。
時間移動は簡単だけドー、それをやると帰ってくるときの許可申請とかが面倒くさいシー、楽しみは後にとっとかないとネー♪
「んふふふふふフー♪」
「……嬉しそうね……何があったのよ?」
「聞きたイー? 聞きたいノー?」
この時点でアブホースは
「聞くんじゃなかった……」
と言いたそうな顔になったが、頭が春になっているナイアは嬉々として語るのだった。
ながーい間待った。
その間は、ずっとキミのことを考えてきた。
キミに会ったらどんな挨拶をしようか考えて、その時の反応がわからないという事実に喜んだ。
クトゥグア達とも今まで通りに楽しく接してきたけれど、やっぱりキミの事を考えるとそれだけで嬉しくなった。
キミが生まれてからは、意識の半分は常にキミの事を見ていた。
キミが動くことによって未来がコロコロと変わるのが楽しくて、それだけで詰まらないと感じることがどんどんと少なくなっていった。
……でも、キミは人間。寿命もあれば病気で死ぬこともある。そして、一度消えた命は元には戻らない。
だからボクはキミが死んじゃうほんの少しだけ前にキミの意識を持ってきて、記憶をそのままに別の時代に甦らせた。
………その事でアブホースにめちゃくちゃ怒られたけど、ボクは全く気にしなかった。だってキミを見てからボクの中のどこかにいつも吹いていた退屈と言う名の荒野にやっと小さな芽が生えてきたんだから。
今までそこには激しくも暖かい炎やプルプルと震える半液体の川、それに暗い所にはいつも小さな影が居たし、その他にも分厚い本が一杯の図書館や大空を埋め尽くす風が居たけれど、生物がそこにいるのは初めてだった。
だから、それだけ嬉しかった。そして、いつまでも居て欲しいと思った。
最後にはアブホースも仕方がなさそうに協力してくれたし、クトゥグアやクトちゃんも手伝ってくれた。
……だから、ボクは今、とっても幸せだ。
「ねえねえフルカネルリー?」
ボクはいつも通りにフルカネルリに話しかける。
《どうした?》
フルカネルリはすぐに返してくれる。
その事に少し嬉しくなりながら、またいつもと同じように軽口を叩き合う。
……早くフルカネルリが人外になってくれないかナー♪
ナイアがフルカネルリにあんなに言われても離れない理由の一つ。