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フルカネルリだ。異界の妖魔の研究により、新たに私の中に魔力が存在する事に気がついた。
《……前に見つけてなかっター?》
それとは別のものらしい。前の物は周囲の万物に宿るエネルギーだとすると、今回の物は個人個人を小さな世界と見立てて自分で生み出すことによって使用できるものらしい。
どちらも魔力ではあるが、外で生み出されて取り込んだものと自分で産み出したものでは質が大分違う。
恐らく前者は同じ世界に存在しているものならばたいして変わることは(水や風といった属性は別として)無いだろうが、後者の魔力は同じ世界の存在でも随分と違うのではないだろうか。恐らく性別や生活によっても逐一変わって行くだろう。『……ふぅん……おんなじ魔力なのにぃ………ずいぶん、違ってくるのねぇ………ふふふ……面白いわねぇ……♪』
おや、久しぶりだな。お疲れさま。
『……えぇ……会いたかったわよぉ……?』
修学旅行から帰るバスの中、私はなぜか校長達のすぐ近くでトランプに参加している。
……本当に何故だ?
「気にすることはないサー。ただ、キミは邪神とかに気に入られやすいみたいだかラー、今度は気を付けた方がいいかもネー?」
……それは、異世界の話か?
「どうだろうネー?」
「ナイア、お前だ」
「あ、ごめんごめん。……5!」
「6です」
「7よ」
「……私か。8」
「………………9」
「クトゥグア、それダウト」
「お兄ちゃん。ダウト」
「わかりやすすぎよ。ダウト」
「……あー……すまんな。ダウト」
「…………ちくしょう」
副校長は嫌そうに場に出ていたトランプを集めて自分の手札に加えた。
結果を見てみると、見事に性格が出てくる。
ナイアは相手に隠し事をする物では強く、騙し合いにはあまり強くない。
校長は
「クトでいいよ」
……クトは有り余る豪運で運と勘が勝敗の要となる物では異様なまでの強さを見せるが、他はそこそこといったところ。
教頭h
「アブホースでいいわよ。学校では役職で呼んでくれれば」
……アブホースは、私と同じ理論派であり、どのような物も平均して一定の結果を出している。
副校ち
「俺もクトゥグアでいいぜ」
……クトゥグアは、正直に言わせてもらうとなぜここまで弱いかと思えるほどに運が無く、弱い。
「酷えなオイ」
「……否定、できるか?」
「……いや、まあ…………できねえけどよ……」
そんなところだ。
……私か? 私は、常にアブホースの一つ下につけていたぞ?
『……ふふふ……楽しそうねぇ……♪』
混ざるか?
『……やめとくわぁ……』
そうか。
「家に帰るまでが修学旅行です!くれぐれも事故などに遭わないように注意して帰ってください!」
クトが五年生達の前に立ち、マイクを使わず声を張り上げる。しっかりと聞こえるのは何故だろうな?
「声の量を増幅して、一人一人の耳元に送り込んでるからだヨー」
まだ実体化していたのか。いいのか?
「後でそこら辺の物陰で消えるから大丈夫だヨー」
そうか。まあ、平気ならばそれでいい。
……さて。母と父に構い倒される覚悟はしておかねばな。
ここ数日でグンと力の効率が良くなった。
今までは大雑把かつ力任せに使っていた術も、今では細かい操作もできるようになり、力も温存できるようになった。
やはり、ただ存在しているだけではわからないことや、戦ってみなければわからないことはあるようだ。
……こんなことを考えるなんて………。どうやらわたしも瑠璃に毒されてきているらしい。
くすくすと笑いながら、両親に可愛がられている瑠璃と、それをわたしと同じように不可視のままで見ているナイアを見る。
………まったく。もうすぐ出かけることになるのに、この一人と一柱は…………。
《……でモー、その方がボク達らしいでショー?》
……ここで、違うと言えないわたしが恨めしい。
『なに、確りと準備は終わらせてある』
……あら、そうなのぉ……。
『ああ。そうだ』
瑠璃がはっきりとした声で語りかけてくる。
……けれど、母親に撫で回されながら言われてもねぇ……?
わたしは、またくすくすと笑い、何も言わずに瑠璃を見る。
昔、わたしを強烈に引き付けた瑠璃の光は、昔以上に強くわたしを魅了する。
そんな瑠璃を、わたしがわたしで在る限り、ずっと守り続けよう。
……わたしの身に余ることは、ナイアに押し付けてやればいいし。
フルカネルリ=人外ホイホイ。
…………かもしれないという話。