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まだまだいきますヨー
フルカネルリだ。雛祭りという傍迷惑な行事から逃げ回っているのだが、父も母も毎年飽きないな。
《フルカネルリってば振袖似合うのに着ないかラー》
五月蝿い、腎虚で死ね。
《女の子がそんなこと言っちゃダメだヨー!》
……一応言っておくが、私の精神は枯れた爺なのだがな?
『……ふふふ……まだまだぁ……若いわよぉ……?』
……そうか?
結局捕まってしまった。まあ、たかが十の子供が大人から逃げようとした所で無理に決まっているのだから当然と言えば当然なのだが、それでも逃げなくてはならないときは逃げる。
《えっトー……そノー………嫌だって言うのはわかってるんだけドー……………似合ってるヨー?》
……五月蝿い、わかっているなら言うんじゃない。
『……ふふふ……♪』
………なにも言われずただ笑われるというのも、中々に気に障るものだな。
今の私? なに、父と母に捕まって振袖を着せられているだけだ。周到に用意されていた物をな。
「……え、えっとぉ……瑠璃ちゃん?」
母が私に話しかけてくるが、私は不機嫌であるというアピールを忘れない。
「……なんでしょうか、哀華さん?」
冷ややかな目で、声は出来る限り低く。そして瞳は瞳孔が完全に開ききっていて光が見えない。そんな状態で母に言葉を返す。
《怖いヨー!? それすっごい怖いヨー!?》
だろうな。私がもしも今の私のような人間を見かけたら、すぐさま目をそらして見なかったことにするだろう。
『………調べてからでしょぅ……?』
何を当然のことを。
私の視線の先で、母が半泣きになっている。
「……うぅ……お願いだからお母さんって呼んでぇ……(泣)」
そう言いながら泣いている母に、私は虚ろな瞳を向ける。
「………………」
そして、無言を貫く。
母の目には涙が溜まっているが、私には全く関係がないことだ。
……ちなみに父は、私が最初に名前で呼んだときから虚ろな目で食卓で頭を抱えている。
…………そろそろ着替えても構わないな?
《いいんじゃないかナー?》
『……ふふふ……ご両親もぉ……すこし、懲りたんじゃなぃ……?』
……そうだといいのだがな。
振袖を脱いで、いつもの服を着る。ただそれだけのことがとても嬉しい。
さらさらとした布から腕を抜いて、多少重いが着なれたシャツを着る。
シャツだけでは肌寒いので(ここで母から「寒いならこれを着るといいかもよ?」とレースの沢山付いたワンピースを見せられたが丁重に無視)、同じ素材でできている白衣を羽織る。
……この白衣、夏には体温を奪って涼しく、冬には体温を保って暖かくなるという便利なものだ。
……最近、裾が短くなってきているというのが困りどころだが。
…………今ならばナイアの加護ですぐに仕立て直せるような気がするな。次の異世界に行く前に仕立て直すか。
くるり、と母の方を見ると、本気かつ全力で泣いていた。ぼろぼろと涙を流していた。
…………やれやれ。
瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃんに無視された瑠璃ちゃ(略)
古鐘哀華の嘆きの思考。
P.S 次の日、フルカネルリが父、母と呼んだら元に戻ったそうだ。