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【一話完結】クビになった元社畜、実家の裏山(S級ダンジョン)を草刈り機で掃除したら世界最強の配信者としてバズる

作者: 蜜柑 あめ
掲載日:2026/07/03

■プロローグ:社畜、実家に帰る。

「君、明日からもう来なくていいよ。君みたいな無能、うちの会社には必要ないから」


ブラック企業のクソ上司からそう宣告され、俺——結城ユウト(27歳・独身)は、五年勤めた会社をあっさりとクビになった。


毎月200時間のサービス残業に耐え、身も心もボロボロだった俺は、抗議する気力すらなく「あ、はい」とだけ答えて退職届を書いた。


都会の狭いアパートを引き払い、俺が向かったのは、亡き祖父が残してくれた田舎のボロ家だった。


「……さて、再就職の前に、まずは裏山の『庭』を掃除するか」


五年放置された祖父の家は、裏山から伸びてきた謎の巨大な植物で覆い尽くされようとしていた。


俺は気分転換も兼ねて、ホームセンターで買った安いアクションカメラを頭にセットし、スマホで動画配信アプリを起動した。


タイトルは『無職の田舎スローライフ。実家の裏山の草刈りします』。


最近流行りの「ダンジョン探索配信」にあやかって、少しでもお小遣い稼ぎになればと思ったのだ。


「よーし、配信スタート。……おっ、さっそく同接(視聴者)が3人いる。こんにちはー。無能な元社畜です。今日は裏山の雑草をホームセンターの草刈り機で駆除していきますね」


俺は愛用のジャージに着替え、エンジン式の草刈り機(お爺ちゃんのお下がり)の紐を力強く引いた。


ブルルルルンッ! と、頼もしい音が鳴り響く。


「まずは、あそこの『うねうね動くデカい食虫植物』みたいな厄介な雑草から刈っていきまーす」


俺は草刈り機を構え、庭に生い茂る巨大な植物の群れへと足を踏み入れた。


——この時の俺は、全く気づいていなかった。


世界中で突如発生した『ダンジョン』。


その中でも、自衛隊すら立ち入りを禁じられた『人類未踏のS級ダンジョン』が、なぜか実家の裏山と直結してしまっていたことに。


■1.ただの草刈り(※A級モンスター討伐)

ギュイイイイイイインッ!!


「ふぅ……田舎の雑草って、根っこが太くてしぶといなぁ」


俺は額の汗を拭いながら、目の前で蠢いていた巨大な植物——いや、なぜか『悲鳴を上げて逃げようとした植物』を、根本から綺麗に薙ぎ払った。


緑色の体液が飛び散るが、お爺ちゃんの草刈り機の刃は全くこぼれていない。


さすが日本製だ。


ふと、スマホの配信画面に目をやると、コメント欄の様子がおかしかった。


【配信コメント】

[名無し] え?

[名無し] は?

[探索者A] ちょ、お前、今何刈った!?

[名無し] あれ、A級モンスターの『デス・トレント(人喰い樹)』じゃね!?

[探索者A] 嘘だろ……プロの探索者がフル装備で挑んで全滅するバケモノだぞ!?

[名無し] それを、ホームセンターの草刈り機でワンパン……???


「ん? コメント増えてる。ありがとうございます! えーと、『人喰い樹』? いやいや、ただのタラの芽のデカい版ですよ。田舎の雑草は育ちがいいんです」


俺がのんびりと返事をしていると、突然、背後の茂みから巨大な影が飛び出してきた。


体長三メートルはある、銀色の毛並みを持った巨大な狼だ。


「うおっ! でっかい野犬! こら! 庭を荒らしちゃダメだろ!」


俺は咄嗟に、持っていた『殺虫スプレー(特大)』を狼の顔面にシューッと噴射した。


「ギャウウウウウウッ!?」


狼は目を押さえて苦しそうにのたうち回り、そのままドサリと倒れて動かなくなった。


「ふぅ, 危ない危ない。田舎の野犬はサイズがおかしいな。保健所に連絡しておこう」


俺がそう呟いた瞬間、スマホの画面が滝のようなコメントで埋め尽くされた。


【配信コメント】

[名無し] !!!!????

[探索者A] おま、それ野犬じゃねええええええ!!

[名無し] S級指定の神獣『フェンリル』様だろおおお!!

[ダンジョンオタク] 戦車砲でも傷つかないフェンリルが、市販の殺虫スプレーで沈んだ……だと……?

[名無し] この配信者、何者!?

[名無し] 殺虫スプレー(物理バフ限界突破)

[名無し] 視聴者数、急に1万人超えてて草


「えっ、視聴者1万人!? なんで!? ただの草刈りだよ!?」


俺が困惑している間にも、同接数は爆発的な勢いで伸び続け、ついに動画アプリの総合ランキング1位に躍り出てしまった。


■2.プロ探索者(笑)の乱入

「……おかしい。庭を掃除しても掃除しても、次から次へと変な生き物が出てくるぞ」


二時間後。


俺の足元には、巨大なドラゴンのようなトカゲ(※S級・業火の飛竜)や、二足歩行するミノタウロスのような牛(※A級・迷宮牛)が、草刈り機とシャベルによって文字通り『山積み』になっていた。


「田舎の自然、豊かすぎない? これ絶対、市役所にクレーム入れた方がいいレベルだよ」


俺が息をついていると、背後から荒々しい声が響いた。


「おい貴様! そこで何をしている!」


振り返ると、ピカピカのフルアーマーを着込んだ、いかにも今風の高レベルな探索者の集団が立っていた。


リーダー格の金髪の男が、俺のジャージ姿を見て鼻で笑う。


「ふんっ。どこから迷い込んだか知らんが、ここはつい先日発見された超危険な『S級ダンジョン』だ! 我々、国内トップギルド『紅蓮の剣』が攻略に来てやったのだ。素人は怪我をする前にさっさと——」


男が説教を垂れようとした、その時だった。


ズゴゴゴゴゴォォォォンッ!!


地響きと共に、裏山の頂上から『それ』が姿を現した。


全長五十メートルを超える、漆黒の鱗に覆われた超弩級の龍。


その威圧感だけで、プロの探索者たちが全員、泡を吹いてその場にへたり込んだ。


「あ、あ、あああ……っ!」


「神話級モンスター『エンシェント・ブラックドラゴン』……! なぜこんな所に!」


「終わった……日本が、滅ぶ……!」


金髪の男は完全に絶望し、剣を取り落としてガタガタと震えている。


しかし、俺の感想は全く違かった。


「あっ!! コラァァァァッ!! お前、俺がさっき植え直したトマトの苗を踏んでるじゃねえか!!」


俺は激怒した。


社畜時代、唯一の癒やしだったベランダ菜園。


その集大成である大切なトマトの苗が、デカいトカゲの足でペチャンコにされていたのだ。


「許さん。絶対に許さんぞ!!」


俺は怒りのままに地面を蹴り、五十メートル級のドラゴンの顔面めがけて、お爺ちゃんの形見である『クワ』をフルスイングした。


ドゴォォォォォォォォォォンッ!!!


「ギャァァァァァァッ!?」


脳天にクワを直撃されたエンシェント・ドラゴンは、信じられないほど間抜けな悲鳴を上げ、そのまま白目を剥いて地面に沈んでいった。


ズドォォン! と、裏山全体を揺るがす地響きと共に、神話の生き物が完全に沈黙する。


「……ふぅ。全く、最近の害獣はデカくて困る」


俺はクワを肩に担ぎ直し、ペチャンコになったトマトの苗を見てため息をついた。


背後を振り返ると、トップギルドの探索者たちが、全員信じられないものを見るような目で俺を見上げていた。


「あ、あの……ご無事ですか? 探索者さん」


「「「ゴッドォォォォォォッ!!!」」」


「えっ、急に土下座!?」


彼らは俺の足元に猛烈な勢いで平伏し、「一生ついていきます!」と叫び始めた。


ふとスマホを見ると、視聴者数はなんと『300万人』を突破しており、画面が見えなくなるほどのスーパーチャット(投げ銭)が飛び交っていた。


【配信コメント】

[名無し] 神話級ドラゴンをクワでワンパンwwww

[名無し] トマトの苗 >>>>> 超えられない壁 >>>>> 世界の滅亡

[名無し] 日本の最終兵器、ジャージ姿で実家の草刈りしてた

[名無し] ¥50,000『トマトの苗、これで買い直してください!!』

[海外勢] OH MY GOD!! JAPANESE NINJA FARMER!!


「え? えっ!? なにこの投げ銭の額!? 500万円超えてる!? え、これ本当に草刈り配信だよね!?」


■エピローグ:無自覚な救世主の日常

それから数日後。


俺の『実家の庭いじり配信』は、世界中のニュースでトップ扱いで報じられ、俺はなぜか【世界最強の探索者】として認定されてしまった。


俺が刈り取った「雑草(A級モンスターの素材)」や「トカゲの死体(神話級ドラゴンの素材)」は、国家予算レベルの金額で国に買い取られた。


ちなみに、俺を無能扱いしてクビにしたブラック企業は、俺の噂を聞きつけて「ぜひ役員として戻ってきてくれ!」と泣きついてきたが。


俺の配信を見ていたギルドの探索者たちが、「我が師匠の過去を調べさせてもらった。労働基準法違反で告発する」と動き出し、あっという間に社長は逮捕されて会社は倒産したらしい。


自業自得である。


「よし、今日も良い天気だ」


俺は真新しいジャージを着て、裏山——もとい、俺の私有地となったS級ダンジョンへと足を踏み入れる。


「視聴者の皆さん、こんにちはー。今日はスパチャで買った高級肥料をまきつつ、あそこで寝ている『三つ首のケルベロス』をシャンプーしてこようと思います」


【配信コメント】

[名無し] 待機!!

[名無し] 今日も神の農業配信が始まるぞ!

[名無し] 地獄の番犬をポメラニアンみたいに洗う男


俺はいまだに自分がなぜ世界中から崇められているのかサッパリ分からないが、まあいい。


毎日のんびりと畑を耕し、ペット(神獣たち)と戯れ、たまに草刈り(モンスター討伐)をするだけで、一生遊んで暮らせるお金が手に入るのだ。


都会のブラック企業を追い出された底辺社畜は、こうして世界最強の農家(?)として、最高の田舎スローライフを手に入れたのだった。


(了)

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