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クラスの完璧美少女と放課後の音楽室で! 2人の時は甘々に!  作者: ルキノア


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放課後の練習

放課後。

校舎の中は、少しずつ静かになっていく。

文化祭の準備で賑わっていた教室を抜けて。

凛は、ひとりあの音楽室の前に立っていた。


深呼吸。

ドアに手をかける。

開けると――

もう、音があった。


ピアノ。

やわらかい旋律。

玲が弾いている。

凛は少しだけ立ち止まる。


(……好きだな、この音)


思わずそう思って。

それから、そっと中に入る。

玲が気づく。

手は止めないまま。


「遅いよ」


凛が少し笑う。


「玲が早いだけ」


玲が軽く肩をすくめる。


「暇だった」


「嘘」


「半分」


凛が歩いてくる。

ピアノの横。

定位置みたいに、そこに立つ。


「今日、何やる?」


玲が弾きながら言う。


「昨日の続き」


「サビ合わせたい」


凛が頷く。


「うん」


少しだけ間。


「ちゃんと歌えるかは別として」


玲が一瞬だけ笑う。


「言い訳早いな」


凛が小さく睨む。


「保険」


「いらないだろ」


「いる」


でも。

その声は少し柔らかい。



玲が弾くのを止める。


「じゃあいくか」


凛が軽く息を整える。

ピアノの前に立つ。

距離は、前より自然に近い。

イントロ。

凛が入りのタイミングを待つ。

歌う。

少しだけ硬い。

玲がすぐ気づく。

でも止めない。

最後まで通す。

音が止まる。

少しの沈黙。

凛が先に言う。


「……今の、どう?」


玲は少し考える。


「悪くない」


凛がじっと見る。


「でも?」


玲があっさり言う。


「少し固い」


即答。

凛が小さくため息をつく。


「やっぱり」


玲が続ける。


「最初よりはいい」


凛が少しだけ顔を上げる。


「ほんと?」


「ほんと」


短い。

でも嘘はない。

凛は少しだけ安心した顔をする。



「もう一回」


玲が言う。

凛が頷く。


「うん」


イントロ。

今度は少しだけ力を抜く。

さっきより自然。


でも――

サビで少しズレる。

ほんのわずか。

でも分かる。

音が止まる。

凛が小さく息を吐く。


「今の」


玲が先に言う。


「ズレた」


凛が苦笑する。


「分かってる」


少しだけ悔しそう。

玲が鍵盤に指を置いたまま言う。


「タイミングは合ってる」


「入りじゃなくて、途中」


凛が考える。


「リズム?」


「たぶん」


凛は少し黙る。

それから。


「……難しいね」


ぽつり。

その言い方が、少しだけ弱い。

玲が見る。


「いける」


短い。

凛が顔を上げる。


「根拠は?」


玲があっさり言う。


「凛だから」


一瞬、止まる。

凛が視線を逸らす。


「……それ、いつもの」


言いかけて。

少し止まる。


「……いや」


小さく首を振る。


「なんでもない」


言い換える。


「信頼されてるのは分かった」


玲が少しだけ笑う。


「それでいい」



少し休憩。

凛が椅子に座る。


「思ってたより難しい」


玲が頷く。


「人に合わせるのはな」


凛が横を見る。


「玲は?」


「ん?」


「やりづらくない?」


玲は少し考える。

それから言う。


「前よりいい」


凛が少し驚く。


「そうなの?」


玲は頷く。


「前は一人だったから」


「合わせる方が楽」


凛は少し黙る。

その言葉を噛みしめる。


(……一人じゃない)


それだけで。

少しだけ、胸が軽くなる。



「もう一回いこ」


凛が立ち上がる。

玲が軽く笑う。


「やる気だな」


凛が言う。


「中途半端で終わりたくない」


玲が頷く。


「いいね」


ピアノの音。

歌声。

何度も重ねる。

少しずつ。

本当に少しずつ。

合っていく。


でも。

完全には重ならない。

その“わずかなズレ”が――

まだ、残っている。



外は、少しずつ暗くなっていく。

音楽室に、音だけが残る。

距離は近い。

空気もやわらかい。


でも。

まだ、ぴったりではない。

そのことに――

二人とも、うすく気づき始めていた。


気づけば。

音楽室の外は、すっかり夕方になっていた。

窓から差し込む光が、少しオレンジに変わっている。


「……もう一回」


凛が言う。

さっきより、少しだけ真剣な声。

玲は頷く。

何も言わず、鍵盤に手を置く。


イントロ。

何度目か分からない流れ。

凛はタイミングを取る。


歌い出す。

最初はいい。


でも――

サビの直前。

ほんの一瞬。

迷いが入る。

音が、わずかに遅れる。


玲の指が止まる。

ピアノの音が切れる。


静寂。

凛が息を止める。

数秒。


「……ごめん」


先に口を開く。

玲はすぐに首を振る。


「いい」


短い。

でも優しい。

凛は少しだけ俯く。


「今の、分かってたのに」


小さく呟く。


「ここで入るって」


「頭では分かってるのに」


玲は少し考える。


「タイミングじゃないな」


凛が顔を上げる。


「え?」


玲が言う。


「意識しすぎ」


凛が止まる。


「……意識?」


玲は鍵盤を軽く鳴らす。


「合わせようとしすぎてる」


凛は黙る。

図星だった。


「ズレたくないって思うほど、ズレる」


淡々とした説明。

でも、ちゃんと見てる。

凛は小さく息を吐く。


「……それ、どうすればいいの」


玲は少しだけ考える。

それから言う。


「俺に合わせなくていい」


凛が目を見開く。


「え」


玲は続ける。


「凛のタイミングでいい」


「俺が合わせる」


あっさり。

当たり前みたいに。

凛はすぐに言い返す。


「でも、それじゃ」


言いかけて止まる。


(それじゃ、玲の負担が大きい)


言葉にしなくても分かる。

玲は軽く肩をすくめる。


「そっちの方が楽」


凛がじっと見る。


「ほんとに?」


玲は頷く。


「合わせる方が慣れてる」


その言葉の奥。

“今までそうしてきた”感じがある。

凛は少しだけ、胸が引っかかる。


でも。

今はそこじゃない。


「……分かった」


小さく頷く。

完全には納得してない。

でも、受け取る。



「じゃあもう一回」


玲が言う。

凛が立ち位置を整える。

深呼吸。

イントロ。

今度は。

合わせようとしない。


ただ、歌う。

少しだけ怖い。


でも――

声は、さっきより自然に出る。


サビ。

タイミング。

ほんの少し早い。


でも。

ピアノが追いつく。

音が、重なる。


一瞬だけ。

綺麗に揃う。


そのまま最後まで通す。

音が消える。

静寂。

凛がゆっくり息を吐く。


「……今の」


玲が言う。


「いい」


即答。

凛が顔を上げる。


「ほんと?」


玲が頷く。


「さっきより全然いい」


凛は少しだけ笑う。


「よかった」


でも。

すぐにその笑顔が、少しだけ弱くなる。


「でもさ」


玲が「うん」と返す。

凛が言う。


「玲が合わせてくれてるよね」


静かな声。

玲は少しだけ黙る。

否定しない。

凛は続ける。


「それで成立してる感じ」


少し間。


「それでいいのかなって思う」


正直な気持ち。

玲は少し考える。

それから言う。


「いいだろ」


シンプルに。

凛が少しだけ眉を寄せる。


「でも」


玲が続ける。


「一緒にやってるんだから」


「どっちかが合わせるのは普通」


凛は黙る。

分かる。

でも――


(それが全部玲側なのは違う気がする)


その違和感。

まだ言葉にしきれない。



少し沈黙。

窓の外。

夕焼けが濃くなる。

凛が小さく言う。


「私も、合わせられるようになりたい」


玲が見る。


「なら練習するだけ」


シンプルな答え。

凛が少しだけ笑う。


「それはそう」


少し間。


「……逃げたくないし」


ぽつり。

玲が静かに言う。


「逃げてないだろ」


凛は首を振る。


「まだ途中」


その言い方。

前の玲と同じ。

玲が少しだけ目を細める。



「今日はここまでにする?」


玲が聞く。

凛は少し考える。

それから頷く。


「うん」


「明日もやろ」


玲が言う。


「いいよ」


即答。

迷いはない。



帰り道。

並んで歩く。

夕焼け。

少しだけ静か。

凛が言う。


「さっきの、ちょっと分かったかも」


玲が「うん」と返す。


「合わせるんじゃなくて、重ねる感じ」


玲が少し笑う。


「いい表現」


凛が少しだけ照れる。


「でしょ」


でも。

そのあと。

ほんの少しだけ、間が空く。

凛は前を見たまま思う。


(でも)


(それ、玲に頼ってるだけじゃない?)


言わない。

まだ言葉にできない。

玲は玲で思う。


(もう少し詰めた方がいいな)


でも、それも言わない。

優先順位は、凛。

無意識にそうしている。



距離は近い。

音も、少しずつ重なってきている。

この2人の形はどうなっていくのだろう。

 

 

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