幕間 凛の気持ち
私が月城くんを気にし始めたのは、
何か劇的な出来事があったからじゃない。
告白されたわけでもないし、
助けられたわけでも、強く励まされたわけでもなかった。
ただ、放課後の音楽室で、
同じ時間に、同じ空気の中にいることが増えただけ。
最初は、偶然だったと思う。
鍵を忘れた日とか、少し一人になりたかった日とか。
静かな場所を探して辿り着いた先に、月城くんがいただけ。
彼は必要以上に話さない。
でも、無視するわけでもなくて。
私が何か言えば、ちゃんと聞いて、短く返す。
その距離感が、妙に心地よかった。
誰かと一緒にいるのに、
頑張らなくていい時間。
「こう思われたい」とか、
「期待に応えなきゃ」とか、
そういうものを全部置いていける場所だった。
音楽室での会話は、いつも他愛ない。
授業のこと、天気のこと、たまに家の話。
特別な言葉なんて、何ひとつない。
それなのに、不思議と覚えている。
月城くんが窓の外を見る横顔とか、
鍵盤に触れない指先とか、
静かな声で私の名前を呼ぶ、その音。
気づいたら、
「今日は来てるかな」って思うようになっていて。
彼がいない日は、
理由も分からないまま、少しだけ落ち着かなかった。
好き、と言うには、まだ早い。
でも、どうでもいい人じゃない。
そんな曖昧な感情が、
いつの間にか、胸の奥に残るようになっていた。
たぶん私は、
何かをされたからじゃなくて──
何もされなかった時間に、惹かれてしまったんだと思う。




