表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラスの完璧美少女と放課後の音楽室で! 2人の時は甘々に!  作者: ルキノア


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/43

ちゃんとしてる子

夏休み凛の家。

凛は玄関でスニーカーを履きながら、小さく息を吐いた。


「行きたくない顔してる」


背後から母の声。


「してない」


「してる」


「してないってば」


母は笑う。


「今日は親戚の集まり。戦場じゃないのよ」


「似たようなものじゃん」


小声で言ったつもりが、ちゃんと聞こえていた。


「凛」


「冗談だよ」


ほんの少しだけ、空気が固まる。

でも母はそれ以上何も言わなかった。

その“何も言わない”が、凛には少しだけ重い。


親戚の家は賑やかだった。

久しぶりに会う1個上の従兄の悠真は、背が伸びていて、相変わらず爽やかだった。


「凛、久しぶり」


「久しぶり」


「高校どう?」


「まあまあ」


「相変わらず優等生?」


「それは知らない」


笑いながら返す。

悠真は悪気なく続ける。


「おばさん言ってたよ。凛は“ちゃんとしてる”って」


ちゃんとしてる。

聞き慣れた言葉。


「そうなんだ」


「凛ならもっと上狙えるっしょ」


軽い口調。

でもその言葉は、軽くない。


「将来、もう決めてるの?」


「まだ」


「もったいないなあ。凛ならいけるのに」

「凛って昔からちゃんとしてたよな。俺、結構助けられてたし」


“いける”。

どこへ?

何に?

凛は曖昧に笑う。


「悠真くんは?」


「俺? とりあえず有名どこキープかな」


さらっと言う。

周りの大人たちが「さすがねえ」と笑う。

その空気の中で、凛は思う。

(ちゃんとしてるって、何だろ)

できること?

失敗しないこと?

期待を裏切らないこと?


「凛ちゃんは? 模試どうだったの?」

「悠真くんは全国判定Aだって」

「やっぱり男の子は頼もしいわねえ」


 親戚たちのたわいのない会話がその後も続いた。



帰り道。

夕焼けはきれいなのに、どこか音が抜け落ちたみたいに静かだった。


母がぽつりと言う。


「悠真くん、立派になったわね」


「うん」


「凛も負けてないわよ」


慰めではない。

でも比べているわけでもない。

ただ、どこか“期待”が混ざっている。


「……ちゃんとしてるから?」


凛が言うと、母は少し驚いた顔をした。


「そうよ。あなたは昔からちゃんとしてる」


それは褒め言葉のはずなのに。

なぜか胸が少しだけ、窮屈になる。


夜。

机に向かう。

問題集を開く。

ペンを持つ。

いつも通りのはずなのに、指先だけが少し重い。


(ちゃんとしてるって、正解でい続けること?)


間違えちゃいけないの?

選び損ねちゃいけないの?

深く考えすぎだと分かっている。

でも、今日の言葉は、静かに残る。


スマホが震える。

玲からのメッセージ。


《何してる?》


凛は少しだけ笑った。


《親戚イベント終了。HP3》


すぐ返ってくる。


《ボス強そう》


《経験値はもらえた》


《何ポイント?》


《ちゃんとしてる子ポイント+10(期間限定ボーナス)》

《称号:優等生》

《バッドステータス:プレッシャー》


少しだけ間が空く。


《それ装備外せないやつ?》

《呪いの称号じゃん》


凛は画面を見つめる。

指が止まる。


《…分かんない》


送信。

既読がつく。

すぐに返信は来なかった。



 翌日。

凛は玲の家に来ていた。

リビングは相変わらず静かで、落ち着く。

玲はソファに寝転がっている。


「HP回復した?」


「微回復」


「ポーション買う?」


「何で払うの」


「ちゃんとしてる子ポイント」


凛はクッションを投げた。


「それ、もうやめて」


「ごめん」


でも玲は少し真面目な顔になる。


「昨日のあれ、どういう意味?」


凛は天井を見る。

言わなくてもいい。

でも、言ってもいい気もする。


「“ちゃんとしてる”ってさ」


「うん」


「何が正解なんだろって」


玲は起き上がる。


「テストなら答えあるけどな」


「人生はマークシートじゃない」


「記述式?」


「配点が分からないやつ」


少し笑う。

そのあと、凛はぽつりと続ける。


「期待に応え続けるのが正解ならさ」


「うん」


「私、途中で間違えたら減点?」


静かになる。

玲は少し考えてから言う。


「減点する人いるの?」


凛は首を振る。


「いない。たぶん」


「じゃあ誰が採点してる?」


凛は答えられない。

玲が続ける。


「凛はさ、ちゃんとしてるっていうより」


一拍置く。


「ちゃんと“考えてる”」


凛が見る。


「違いある?」


「ある」


玲は真面目だ。


「ちゃんとしてるは、外から見た評価」


「ちゃんと考えてるは、自分の中の話」


凛は少し黙る。

その言葉は、思っていたより軽い。


「…それなら、ちょっと楽」


「だろ」


玲は照れたように目を逸らす。


「まあ俺は、凛が間違えても面白いと思うけど」


「何それ」


「完璧キャラ崩壊」


「やめて」


少し笑う。

その空気の中で、凛は気づく。

昨日より、胸が軽い。

正解はまだ分からない。

でも。


“減点されない場所”がここにある。


それだけで、少し呼吸がしやすい。


帰り際。

凛が言う。


「私さ」


「うん」


「ちゃんとしてる子、やめたらどうなると思う?」


玲は即答する。


「凛のままだよ」


その一言で、凛は笑った。


「それなら、まあいいか」


外はまだ夏の匂いがする。

問題は解決していない。

期待も消えていない。


でも。

凛は初めて思う。


“減点されない場所”がここにある。

それだけで、呼吸がちゃんと肺まで届く気がした。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ