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クラスの完璧美少女と放課後の音楽室で! 2人の時は甘々に!  作者: ルキノア


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25/43

夏休み開始

終業式の翌日。

朝から蝉が鳴いている。


凛は目覚ましが鳴る前に目を覚ました。

(夏休み)


言葉にすると、少しだけ胸がくすぐったい。

昨日までは毎日会えていた。

でも今日からは、“約束しないと会えない”。

それが少しだけ特別に感じる。


クローゼットを開ける。

制服ではない服。

白のブラウスに、淡い水色のスカート。

図書館だから派手にはしない。


でも、少しだけ丁寧に。

鏡の前で髪を整える。


「……よし」


誰に言うでもなく、小さく呟く。

スマホが震える。


『着いた』


玲から。


短い一文。

凛の口元が自然に緩む。


『今行く』


返信してから、少し深呼吸。

ただ図書館に行くだけ。

なのに、心臓が少し速い。



駅から少し離れた凛の家の近くの市立図書館。


ガラス越しに夏の日差しが反射している。

入口の影の中に玲が立っている。


Tシャツに薄いシャツを羽織っているだけ。

いつも通り。

でも今日は、制服じゃない。

それだけで少し違う。


目が合う。

ほんの一瞬、互いに言葉が出ない。


「早いね」


凛が先に言う。


「凛も」


それだけ。

それだけなのに、少し照れる。


昨日まで毎日会っていたのに。

“夏休み最初”というだけで空気が変わる。


「……入ろ」


「うん」


並んで歩く。

距離はいつも通り。

でも、少しだけ意識している。



閲覧席。

窓際の静かなテーブル。

冷房の風が静かに流れる。


凛が課題を広げる。


「英語からやる?」


「任せる」


「じゃあ英語」


凛が問題を指差す。

玲が少し身を乗り出す。

肩が触れそうになる。


(近い)


でも動かない。

玲は普通に解く。


「これじゃない?」


「……正解」


凛が小さく笑う。


「やるじゃん」


「誰に言ってる」


小声で笑い合う。

図書館だから、声を抑える。

その“共有してる感じ”が心地いい。


しばらく無言で集中する。

でも、不思議と気まずくない。


ページをめくる音。

ペンの走る音。


隣にいる気配。

凛はふと思う。


(この感じ、好きかも)


特別なことをしていない。

でも、特別な時間。

一時間ほど経って。


凛がペンを置く。


「集中すると早いね」


「凛、今日ちょっと静か」


「いつも静か」


「違う意味」


凛が視線を逸らす。


「……初日だから」


「何が」


「夏休み」


少し間。

凛が小さく言う。


「最初に会うの、玲がいいなって思った」


言ってから、耳が熱くなる。

玲が止まる。


数秒。


「光栄」


「軽い」


「重く言う?」


「言わなくていい」


でも、嬉しい。



休憩で自販機へ。

冷たい缶を持つ。


外に出ると、むっとする暑さ。

凛が目を細める。


玲が少し前に出る。

無意識に日差しを遮る位置。


凛は気づく。

何も言わない。

でも、胸があたたかい。


「学校ないの変」


凛が言う。


「毎日会えないから?」


一瞬止まる。


「……会うけど」


即答。


玲が笑う。


「毎日なんだ」


「できるだけね」


目が合う。


一瞬だけ、時間がゆっくりになる。

夏の匂い。

初めての“約束のある夏”。


駅前で別れる前。


「また明日?」


「空いてるなら」


「空いてる」


凛が笑う。


「じゃあ明日も課題」


「図書館以外も行こうね」


「考えとく」


小さな約束。

それだけで、胸が満たされる。


夏が始まった。

まだ何も起きていない。


でも。


“ふたりで過ごす”というだけで、

世界の色が少し違う。



 夕方。


凛が帰宅する。


「ただいま」


返事はない。


広くて、整っていて、少し静かすぎる家。

靴を揃えて、リビングに入る。

テーブルの上には、母の置き手紙。


『今日は少し遅くなります。冷蔵庫にサラダあります』


きれいな字。

几帳面な性格がにじむ文字。

凛はそれを見て、小さく息を吐く。


(いつも通り)


自分の部屋に入り、鞄を下ろす。


スマホを見る。


玲からのメッセージ。


『明日どこ行くか良い場所あれば教えて』


凛は少し笑う。


『考えとく』


送信。


ベッドに倒れ込む。

静かな天井。


さっきまで隣にいた気配を思い出す。

胸が少しだけ温かい。


(ちゃんと、始まったんだ)



夜。

玄関の鍵が開く音。

凛はもう部屋にいる。

リビングの明かりがつく。

母が帰ってきた。


スーツ姿のまま、ソファに腰を下ろす。

バッグからスマホを取り出す。


通知。


“体育祭動画送るね!”


ママ友から送られてきたデータ。

母は少しだけ迷ってから、再生する。


画面の中。


走る凛。

真剣な顔。


少し乱れた髪。

笑っている瞬間。


誰かと並んで話している姿。

その横顔。


母は思わず、微笑む。


「こんな顔するのね」


学校での凛を、全部は知らない。

家ではあまり弱音を吐かない。

何でもきちんとこなす。


でも動画の中の凛は、

少し子どもっぽくて、

少し無防備で、

ちゃんと“楽しんでいる”。


母の指が、画面を止める。

凛が誰かと並んで笑っている場面。


画面の端に、玲の姿が映っている。

名前までは知らない。

でも、距離が近い。


自然な距離。

母は少しだけ目を細める。


「……よく笑ってる」


それだけで、胸が少し軽くなる。



しばらくして、スマホが震える。


父からのビデオ通話。


「お疲れ」


「そっちはどう?」


仕事の話が少し。

そのあと、父が聞く。


「凛は?」


「もう部屋よ」


「夏休み、だよな」


少し沈黙。


母が言う。


「ちゃんと楽しめてるみたい」


「そうか」


父はほっとしたように笑う。


「無理してないといいけどな」


母も頷く。


「あなたに似て、言わないからね」


父が苦笑する。


「俺はそんなに」


「似てるわよ」


画面越しの静かな笑い。

父がぽつりと言う。


「寂しくさせてないか?」


母は少しだけ考える。


動画の凛を思い出す。


走って、笑って、誰かと並んでいた姿。


「……大丈夫よ」


優しく言う。


「私たちは、あの子が幸せならそれでいい」


父も頷く。


「だな」


通話が終わる。

静かなリビング。


母はもう一度、動画を再生する。

凛が笑う。

その隣にいる誰か。


「もっと子供らしくて良いのに」


凛は知らない。


期待も、心配も、


全部“縛るため”じゃない。

守りたいから、願っているだけ。



その頃。

凛の部屋。


ベッドの上で天井を見つめている。

母が動画を見ていることも、

父が心配していることも知らない。


ただ、今日の図書館を思い出している。


「最初に会うの、玲がいい」


自分で言って、少し笑う。

スマホが震える。


『明日アイスでも食べない?』


玲から。

凛の胸がまた、少しだけ弾む。


『課題終わったら』


送信。


小さな約束。

静かな家。

でも。


今日は少しだけ、あたたかい。

夏は、始まったばかり。

 

 

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