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クラスの完璧美少女と放課後の音楽室で! 2人の時は甘々に!  作者: ルキノア


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23/43

崩れ始める凛の仮面

朝の教室は、いつも通りのざわめきに包まれている。


休日明け特有の少し重たい空気。


窓から入る光は、昨日より少し冷たい。


凛は自分の席に座り、プリントを机に広げている。


完璧な姿勢。


いつも通り。


「凛、おはよ」


「おはよ」


自然な笑顔。


声のトーンも、何も変わらない。


優等生藍原凛。


そのまま。


でも。


教室の扉が開く音がした瞬間。


無意識に、視線がそっちへ向く。


――来た。


玲が入ってくる。


いつも通りの表情。


特別なことは何もない顔。


でも。


一瞬だけ。


目が合う。


ほんの一秒。


それだけ。


凛の口元が、わずかに緩む。


玲も、ほんの少しだけ笑う。


約束通り。


それだけなのに。


胸の奥がじんわり熱くなる。


(無理)


凛はすぐに視線を落とす。


プリントの文字が頭に入らない。


(にやけるって言ったじゃん私)


手で頬を押さえる。


冷たい。


でも内側は熱い。


「凛?どうしたの?」


クラスメイトが覗き込む。


「なんでもないよ」


完璧な笑顔。


でも少しだけ柔らかい。


その様子を、玲は自分の席から見ている。


気づいている。


凛がちょっとだけ浮ついていること。


でも誰にも分からないレベル。


授業が始まる。


いつものように、凛は当てられて答える。


すらすらと。


迷いなく。


教室が感心する。


玲はそれを見ながら思う。


昨日、ケーキ落としかけてたやつと同一人物か。


少しだけ口元が緩む。


凛がその気配に気づく。


ちらっと見る。


また目が合う。


今度は一瞬長い。


凛の視線が、ほんの少しだけ柔らかくなる。


優等生の顔じゃない。


昨日の夕方の顔。


玲は視線を逸らさない。


逃げない。


凛が、ほんの少しだけ驚く。


でもすぐに、満足そうに前を向く。


(ちゃんと隣に立つって、そういうことか)


言葉じゃなくて。


態度で。


昼休み。


机を寄せた女子グループの中心に、凛はいる。


いつも通り。


自然体で、落ち着いて、笑っている。


……はずだった。


「ねぇ凛」


友人のひとりがニヤっとする。


「昨日なにしてたのー?」


凛の手が、ぴたりと止まる。


「え?」


「振替休日じゃん」


「あー……うん」


声が、わずかに遅れる。


「何って、普通に」


「普通って何」


「家でちょっとゆっくり」


目を逸らす。


ほんの一瞬。


「ほんとに?」


別の子が身を乗り出す。


「だって昨日駅で凛っぽい人見たって言ってた子いたよ?」


凛の心臓が跳ねる。


(え)


「え、うそ」


一瞬、素の声。


「あ、いや、人違いじゃない?」


早口。


友人たちが顔を見合わせる。


「……なんか怪しい」


「怪しいよね」


「全然目合わせないし」


凛は慌てて笑う。


「だから何もないって」


「じゃあなんでそんな焦ってんの」


「焦ってないし!」


少し声が大きい。


自分で気づいて、咳払いする。


「……別に」


取り繕うように髪を耳にかける。


耳が、赤い。


友人がじっと見る。


「凛ってさ」


「なに」


「隠し事すると分かりやすいよね」


「してない」


即答。


早すぎる。


「ほら」


笑いが起きる。


凛は頬を押さえる。


(落ち着け)


「ていうかさ」


別の子が話題を変えるように言う。


「山下の件どうなったの?」


空気が少し変わる。


体育祭のあと。


あの告白。


初めての登校。


凛は一瞬だけ黙る。


「ちゃんと断ったよ」


静かな声。


「やっぱり?」


「うん」


「もったいなーい」


「山下くん結構本気っぽかったよ?」


凛は笑う。


優等生の、きれいな笑顔。


でもほんの少し、やわらかい。


「私、他に好きな人いるから」


空気が止まる。


「……は?」


「え?」


「ちょっと待って」


一斉に詰め寄られる。


凛がしまった、という顔をする。


「え、今なんて?」


「いや、その」


視線が泳ぐ。


「聞き間違い?」


「いや言ったよね今」


「好きな人いるって」


凛は言葉に詰まる。


(言うつもりなかったのに)


「……まぁ」


観念したように小さく言う。


「いる、けど」


「はぁ!?」


「いつから!?」


「誰!?」


質問が飛び交う。


凛は両手を振る。


「ちょ、ちょっと待って」


「え、もしかして昨日その人と?」


「違う!」


反射的に否定。


でも間がある。


友人たちの目が鋭くなる。


「……凛?」


「だから違うって」


顔が赤い。


明らかに分かりやすい。


「まさかさ」


ひとりが小声で言う。


「体育祭の前から?」


凛は黙る。


否定しない。


それが答え。


「だから山下断ったの?」


凛はゆっくり頷く。


ほんの少しだけ。


教室のざわめきが遠く感じる。


「え、誰?」


「同じクラス?」


「部活?」


凛は首を振る。


「言わない」


「えー!」


「まだ」


小さく付け足す。


その言い方がもう怪しい。


「まだって何」


「そのうち分かるかも」


にやっと笑う。


余裕の顔。


でも耳は真っ赤。


「凛、絶対顔に出てるよ」


「出てない」


「出てる」


そのとき。


教室の端。


玲と目が合う。


一瞬。


凛の表情が、ふっと緩む。


優等生の顔じゃない。


友人がその視線の動きを追う。


「……あ」


凛がはっとする。


視線を戻す。


「何」


「今、誰か見た?」


「見てない」


「見た」


「見てないってば!」


笑いが起きる。


「凛ってこんな分かりやすかったっけ」


「最近ちょっと柔らかいよね」


「なんか余裕あるし」


凛は誤魔化すように笑う。


でも心臓はうるさい。


(ばれてないよね)


教室の端。


玲は静かに前を向いている。


何も知らない顔。


でもほんの少しだけ、口元が上がっている。


月曜日。


体育祭の余韻。


告白のあと。


そして、秘密の始まり。


まだ名前は出ていない。


でも。


何かが始まったことだけは、


確実に、クラスの空気に滲み始めていた。

 


放課後。


チャイムが鳴る。


凛は立ち上がる。


「じゃあね」


「また明日ー」


自然に教室を出る。


誰も気づかない。


玲も少し遅れて席を立つ。


向かう先は同じ。


音楽室。


まだ誰もいない廊下。


窓から差す夕方の光。


扉の前で、凛が立ち止まっている。


振り返る。


昨日より少しだけ、距離が近い。


「来た」


「約束だし」


凛が笑う。


昨日より、安心した笑顔。


「ねぇ」


「ん?」


「ちゃんと笑ってくれた」


「約束だろ」


凛は小さく息を吐く。


「今日一日、それで頑張れた」



 放課後のチャイムが鳴る。


凛は教科書を静かに鞄へ入れる。


手元はいつも通り丁寧。


でも、内心は落ち着いていない。


(やばかった……)


「好きな人いる」発言。


完全に予定外。


しかも最後、視線。


絶対誰か気づいた。


「凛、今日テンション変じゃない?」


「普通だよ」


「好きな人パワー?」


「うるさい」


笑って誤魔化す。


でも耳がまだ熱い。


教室を出るとき、無意識に端を見る。


玲はまだ席に座っている。


視線は合わない。


あえて。


それが余計に、くすぐったい。


凛は先に廊下へ出る。


階段を上がる。


音楽室のある三階は、人が少ない。


扉の前で、深呼吸。


(落ち着け)


ガラ、と開ける。


誰もいない。


静かな夕方。


窓から柔らかい光が差し込んでいる。


数分後、足音。


凛の心臓が少しだけ跳ねる。


扉が開く。


玲が入ってくる。


一瞬、目が合う。


凛の肩が、目に見えて少し下がる。


「……はぁ」


「何そのため息」


「今日疲れた」


素の声。


椅子にどさっと座る。


完全に優等生モード解除。


玲が近づく。


「何かあった?」


凛が少し迷う。


でも隠さない。


「昼、やらかした」


「何」


「好きな人いるって言っちゃった」


玲の動きが止まる。


「……へぇ」


「“へぇ”じゃない」


凛が睨む。


でも弱い。


「言うつもりなかったのに」


「焦ってた?」


「ちょっと」


「ちょっと?」


「……かなり」


凛が机に突っ伏す。


「最悪」


声がくぐもる。


「しかも最後、ちょっと視線動いちゃったし」


「どこに」


凛が顔を上げる。


じっと見る。


「分かってるでしょ」


玲は小さく笑う。


「バレた?」


「たぶんグレー」


「セーフじゃん」


「全然セーフじゃない」


凛が立ち上がる。


「私あんな分かりやすかった?」


「うん」


「やっぱり!?」


「目が合ったときの顔」


「どんな顔!」


玲が少し考える。


「柔らかい」


凛が固まる。


「……やめて」


「なんで」


「それ言われるの弱い」


視線を逸らす。


耳が赤い。


玲が一歩近づく。


「今日さ」


「うん」


「昼も、朝も」


「何」


「なんか嬉しそうだった」


凛は言い返そうとして、止まる。


思い出す。


朝、目が合った瞬間。


昼、視線が合ったとき。


自分がどんな顔をしていたか。


「……無意識なんだけど」


ぽつりと言う。


「勝手に笑ってる」


「知ってる」


「知ってるって何」


「昨日もそうだった」


凛がじっと見る。


「私そんな崩れてる?」


「崩れてる」


即答。


「俺の前だと」


凛の呼吸が少し止まる。


「……」


否定しない。


できない。


玲が続ける。


「無理してない感じする」


静かな音楽室。


凛は数秒黙る。


それから、ふっと笑う。


「なんか悔しい」


「何が」


「私、ちゃんと隠せるタイプだと思ってた」


「隠せてるよ」


「どっち」


「みんなには」


少し間。


「俺には無理」


凛の顔が一気に熱を帯びる。


「それずるい」


「何が」


「安心する」


小さい声。


自分でも驚いたみたいに目を瞬く。


「あ」


玲が気づく。


凛も気づく。


また、無意識。


「今のなし」


「可愛いね」


「やめて!」


凛が軽く腕を叩く。


距離が近い。


昨日より自然。


「……でもさ」


凛が少しだけ真面目な顔になる。


「ちょっとだけスリルあって、楽しい」


「何が」


「バレそうでバレない感じ」


いたずらっぽく笑う。


「凛、性格悪いな」


「知ってる」


即答。


二人とも笑う。


さっきまでの緊張が、溶ける。


凛がゆっくり息を吐く。


「今日さ」


「うん」


「目、ちゃんと笑ってくれた」


「約束だから」


凛が少しだけ近づく。


「それだけで頑張れた」


静かな声。


玲は逃げない。


視線を逸らさない。


凛が、ほんの少し照れて笑う。


「やっぱ無理だわ」


「何が」


「私、絶対顔に出る」


「いいじゃん」


「よくない」


でも。


嫌じゃない顔。


夕日が差し込む。


音楽室は、もう“二人の場所”になりつつある。


「ねぇ」


凛が小さく言う。


「もしバレたらどうする?」


玲は少し考える。


「そのときはそのとき」


「雑」


「でも逃げない」


凛の目が、やわらかくなる。


「うん」


短い返事。


それだけで十分。


秘密はまだ守られている。


でも。


昨日よりまた少しだけ、距離は縮まった。

 

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