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一瞬の沈黙の輪の広がりの後、彼女は静かに口を開く。
「時志幸心。中2。」
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そこから先は、何もなかった。
流石のマリンも、苦笑いを出してしまったほどだ。
「えっと…。ネットでは確か透彩ちゃんだったよね。宜しく。」
「はあ…。」
「え?御免。何か気に障ることした?」
「は?とりあえずアカウント見せればいい?これ。もういいね?」
沈黙の輪が広がる。
皆が、気まずい顔をしてなんとかそれを変えようとしていた。
「あ、じゃあこれで自己紹介は終わったね…。で、どうしようか…。私たち此処に来たのはいいけど純霊ちゃんも居ないしどうしたら…。」
そうだ。
私たちがここに来た目的が、まだわからないじゃないか。
せっかく母親を突き放してまでこんなところに来たのに、それこそ気まずい。
私は誰にも守られないって決めたんだから、その代償としてはやはりほしいものがある。
私は、今日何のために家を捨てたのだろう。
それが解らないと理解できた瞬間、私は体がこわばった。
どうやら意味を知らないというのは、こんなにも怖いことらしい。
皆が困惑するような表情を見せると、アマネが口を開いた。
「じゃあさ、私たちでネッ友としての思い出を作るのは…?せっかく集まったんだし、純霊のためにもなるはず!」
「なるほど。でも、思い出を作って何の意味があるの?」
イツバが、疑問を投げかけた。
言われてみればそうだ。
でもアマネはこう言う。
「そうすればさ、いつか純霊も来ると思う。もしくは小説のヒントとか…。だってさ、何もないのに此処に呼び出すわけないでしょ?」
確かにそうだ。
純霊が私たちを此処に呼び出すのには、理由があるだろう。
流石にそこまで無責任な人間でないことを、私は知っているつもりだ。
なんて自己満をいつの間にやら発していた私は一人感心するようなそぶりを見せた。
「じゃあさ、目的が見つかるまでここにいて、目的が見つかったらそれをすればいいんじゃないかな。純霊もそれを望んでいるといいな。きっと、純霊が私たちを此処へ呼んだのには理由がある。だから動きがあるまでは待とう。」
「なるほど…。」
私が言い終わると同時に、マリンが口を開く。
「みんなももう家には戻らない覚悟で来たと思うし、私が実際そうだからいろいろもってきてるでしょ?」
「はい。僕もみんなが来ると思って薬とはさみは何とか我慢しました。でも服とかはもってきています。だから、みんなと此処で暮らしていって答えを探す…。それでいいと思います。」
「うん。ヤミちゃんもここまで来るときにいろいろなことを切り捨てたはずだから、私たちはそれでいい。」
「うん…。」
ふと、アマネが口を開いた。
「それでさ、みんなで暮らすなら役割とか決めたくない?例えばマリンちゃんは最年長だから…。」
それはとてもいいと思う。
未成年の集まりである私たちは、いつ何が起こるか判らないのだ。
いざって時のために訓練的な意味もあると思う。
世間から見ればただの家出だの不良だの言われるが、私たちからすればそれもいつかは日常に過ぎなくなる。
純霊のためになるならと、私は一番に声を張り上げた。
「じゃあ、私は洗濯とか就寝とかの担当でいい?」
「いいよ!じゃあ私が班長ってことで大丈夫?」
「勿論。最年長なんだからしっかり頑張れるはず…。」
「じゃあボクは掃除やるね。何でもやれば天才だって言われるから。」
「じゃあ俺が炊事で大丈夫?料理は自信あるから…。」
皆が次々と声を上げてくれて、私もほっとする。
何よりネットでも喋っていたみんなの性格が出ていて何処か嬉しさを感じる。
「ヤミちゃんは何がいい?何でも大丈夫。」
「じゃあ、非常時用に裁縫セット持ってきていたから服を縫ったりするので大丈夫ですか…?」
「全然いい!むしろすごく重要な役割だよ!有難うね立候補してくれて!」
「はい、有難う御座います。」
「じゃあ、トイロちゃんはどうする?何か少しでも得意なことがあればそれだけでいいよ。」
残り一人、トイロは一向に口を開かないため、気づいたマリンがこう言う。
しかし、まるでネッ友だとは思えない口調でトイロは乱暴に言い放った。
「は?別にどうでもいいだろ。私は関係ない。大体さ、ネッ友でもないくせに私は純霊に無理やり呼び出されたんだよ?だから面倒臭い。」
流石のマリンも黙るほど、驚きの発言をしたトイロに私は詰まる。
無理やり呼び出されるって、何だろう。
そう考えれば、私たちだって無理やり呼び出されたっていう言い方なのかもしれない。
「でもさ、呼ばれたからには責任もって最後まで一緒に探してあげないと。きっと純霊もそれを望んでいる。」
「だから何だよ。別に私は興味ない。ただあっちの方から話しかけてきて勝手にネッ友にされた。うっとうしい。」
そうなんだ。
トイロは純霊の方から話しかけてくれた貴重な存在だと、私には思える。
でもそれを望まない人だっているだろう。
そうだ、例えば私だってそうなのかもしれない。
私の方から友達になろうって言って、純霊はそれを了承してくれた。
でももしかしたら、もしかしたらそれは無理矢理だったのかもしれない。
ネットは何でも書き込めるし、簡単に暴言を吐ける。
でも受ける側は生身だから、大きな傷が与えられる。
もしかしたら私も、優柔不断だった純霊が無理矢理友達として認証しただけなのかもしれない。
結局友達って何なのか、またわからなくなってしまった。
沢山の友達設定の人がのしかかって、さらに暴言を吐かれて心が折れる。
その心は、簡単に想像できた。
それでも私は、私だけには年齢も教えてくれたから此処で生きることを選ぶ。
「いやなら抜ければいいと思うよ。私は此処で答えが見つかるまで過ごすけど。」
「うん。私も。純霊も待ってくれていると信じて。」
私たちは、私は少なくともここで仮初めの生活を始める。
例え何も待っていなくても、絶対に今後のためになるとどこかが言っている。
一人決意した私の、探求生活が始まった。
今思いましたが名前がヤバいですね…。
キラキラ的な…?




