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電車に揺られる時間は、いつもよりずっと長くて短い。
荷物が重くて肩が痛みを発していても、そこまで気にならなくなった。
舞台は廃校だ。
Wi-Fiが通っているかもわからないし、パソコンが使えたら奇跡というくらいだ。
でも、今までの話の履歴が勝手に消されてしまうことも考えた私はそれが怖くて持って行ってしまった。
他の子たちはスマホが多いし、私だけ持って行かないのもあれだから。
ネッ友として持っていかねばとどこかが確信したんだ。
ただのお荷物と化したそれが、使えることを祈って私はふとアナウンスに耳を傾ける。
『まもなく×× お出口は左側です』
あ、と言いそうになるが私は考え事をしているうちに東京についていたのだ。
シートに座る時間があまりにも長かったからだろうか、重くなった体を引きずるように私は外に出る。
此処からは私の記憶と信心が試される。
そう一人で何かを決意しながらどんどん田舎になっていく道を歩き出す。
私が住んでいたところも東京に負けないくらいの大都市だったから、そこまで迷う感じではないけれど。
建物と、沢山の人とすれ違いながら私はつるにまみれたそれに向かう。
正門まで来たと確信できたのは、入り口に『星』の文字があったからだ。
私は今までにない鼓動の速さを覚え、ゆっくりとその建物に吸い込まれていった。
此処に来るまで、幾つの建物を超えて何人とすれ違い、何種類の植物を見てきただろうか。
沢山のことを犠牲にしてきた私にも、まだ可能性があるとしたら。
勉強とまともな生活以外で、世界ではなく誰かに貢献することができるのなら。
私がはっぱを踏み、ぐしゃっと音がするとそれに反応するように建物から音が聞こえる。
音がする方を振り向くと、窓から手を振る人がいた。
高校生くらいだろうか、明るい顔を見せるその子に、一目で確信が付いた。
その笑顔につられて思わず私は話しかける。
「こんにちはー。こちらで合っていますでしょうかー?」
そう言ったきり、その声が響くのを感じて私はうつむきそうになった。
それでも、頷く彼女をに目線がうつってまた私も笑顔になれる。
それで安心したのか、私の足はずっと軽くなった。
笑顔で階段を上ろうとした時私に疑問が浮かんだ。
土足で入って大丈夫か?
でも、床はとても汚いから靴を脱ぐ気にはなれない。
私が戸惑ったまま窓の近くだった職員室の前に立つと、先ほどの少女が出てきて会釈する。
「こんにちは。ネットでマリンとして活動している、潮田翠糸です。宜しくお願いします。以上で呼ばれた7人はそろったと思われるのですが…。」
「あ、私は寺歌真譜です。マラとして活動しています。」
「あー。マラちゃん?何時も凄く仲よさそうに純霊ちゃんと喋っていたもんね。よかった。」
「私が一番最後ですかね?」
「まあ一応そうだね。多分だけど全員のことは把握済み。透彩ちゃんだけは判らなかったんだけど…。」
「透彩…。私も解らないな。てかタメ口でいい?」
「全然いいよ!むしろその方が堅苦しくなくていいし!みんなも後で自己紹介するから。」
「有難う!じゃあ、よろしく!失礼しまーす…。」
「あ、此処はみんなの集合を確認するためだったの。だからみんなの部屋を割り当てておくからそこで生活する感じだね。」
「なるほど…。じゃあここは、周りを見通して何かあった時に備えるためなんだね。」
私じゃ考えつかないような、感心することばかり。
流石、みんないろいろな情報をキャッチしているだけあるな。
俗にいうリビングとなるのが、給食室らしい。
皆でそこに集まり、まずは自己紹介となるだろう。
一人一人が、此処まで来た経緯を話し、これからここでどうするかを決めていく。
「まずは私からいきますね。潮田翠糸。ネットでは舞鈴として活動している高校2年生です。私立校出身だから親からの期待も大きくてさ。だからあのサイトが唯一の救いだった。」
そう言って生徒手帳と、小さなノートパソコンを持ってくる。
画面の下の方を見ると、Wi-Fiのマークがあった。
「Wi-Fi繋がるみたい。だから大丈夫だよ。電気も尽くし、充電も問題ないと思う。」
「あ、よかった。一番心配していたのそこだからさ。」
私がそう言うと、沈黙が広がる。
「あ…。私も自己紹介しちゃいますね。寺歌真譜。ネットでは真来という名前で活動している、中学1年生です。生徒手帳はこちらです。」
私も、そう言って小さな手帳を見せた。
一同が笑顔を向け、私は安堵する。
「次は私かな?海華優見です。ネットだと天音として活動しています。宜しくお願いします。私が五葉ちゃんと同じで最年少かな?小学6年生です。」
「あ、じゃあボクも自己紹介しますね。七星颯雷です。先ほど言ったように小6で、ネットだと五葉として活動しています。一人称が特徴的だからわかりやすいですよね。はい。」
「次は俺ですね。一人称からも解る通り如月累です。ネットでは光ですね。宜しくお願いします。」
此処まで言い終わったタイミングで、沈黙が流れる。
残りは二人。
どちらも中学生に見えるが…。
「あ、この子は宵溺結羽。中1でネット名はヤミ。ちょっとここまで来るのがしんどかったみたいで…。」
そう言うと、その子は生徒手帳を取り出した。
その腕に、いくつかの傷が見える。
「これで大丈夫ですか?お願いします。みんなのために薬は我慢します。なので…。」
「大丈夫。みんな分かってくれるよ。もし何かあったらすぐに教えてね。」
「はい…。」
「最後は幸心ちゃんだね。」
そう言うと、最後まで残った中学生くらいの少女に目が行く。
しかしその口から発せられたのは考えもしない一言だった。




