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母さんへの言葉、旅立ち
彼は母親の墓の前にいた。線香に火をつけ手を合わせる。
母さん、生きているうちに親孝行が出来なくてごめん。散々迷惑をかけたダメ息子だったオレを、最後まで見捨てずに育ててくれてありがとう。今は、旧友と会社を共同経営してる。引きこもりのオレが信じられないだろ?人は切羽詰まれば変わるもんだな。母さんに甘えていただけかもしれない。
線香の匂いが鼻につく。彼の気持ちは、静かに弔いへと向かっていた。
ポケットから名刺入れを取り出した。自分の名前が取締役になっているそれを、彼は墓の前に置いた。
これがオレ達の会社の名刺だよ、母さん。何も心配することはない。生きていくよ。母さんの手紙で気づいたんだ。オレは考え過ぎていた。頭でっかちになっていたんだ。まずは動くこと。これが大切だったんだね。ありがとう母さん。
深く目を閉じた彼の目から、涙が一粒流れた。これは弱さのしるしじゃない。これから一人の男として生きていく覚悟の証拠だ。彼は墓の前でゆっくり立ち上がると、母親に背を向けて歩き出した。
夕日がもうすぐ出てきそうな空が、彼の背中を包んでいた。




