森田弁護士事務所で契約する
森田弁護士事務所は街外れのビルの4階にあった。ドアを開けると、彼を出迎えたのは中年の女性だった。手前にある仕切られた客間に通された彼は、ソファに腰掛け土地の証書をカバンから取り出した。母親の残してくれた財産だ。
「森田はもう少しで参りますので、しばらくこれをお飲みになってお待ち下さい」
「ありがとうございます」
出された熱いお茶を一口啜ると、彼は落ち着きを取り戻した。これで全てが終わるんだ。これからが自分の新しい人生だ。長いようで短かったこの一年。がむしゃらに働いて、ネット難民にもなった。希望は失われてなかった。
時計の針が午後14時を指した頃、森田弁護士が部屋に入ってきた。白髪にヒゲをたくわえた、さびれたスーツを着たパッとしない印象の老人だった。彼はソファから立ち上がって軽く挨拶をした。
「はじめまして。森田と言います。どうぞおかけになって下さい」
彼は森田弁護士に土地の証書を手渡すと、〇〇商会の嫌がらせに困っていることを相談しはじめた。森田は一通り話を聞くと、にこやかに答えた。
「この土地は少なくとも500万の価値はあるでしょう。〇〇商会への返済も滞りなく終えることが出来ます。法的にしっかりケリをつけるために私が正式な文書を作成し、〇〇商会へ契約をとりにいきますから安心して下さい」
彼は頭を下げ退室した。ドアを開け森田弁護士事務所を後にすると、路地裏でタバコに火をつけた。煙が空に舞い上がっていく。それを眺めながら、彼は終わりが近づいていることを嬉しく思った。希望はいつ消え、また現れるのか全くわからないものだ。きまぐれな神様の采配は、彼を苦しめ喜びを与えた。
彼はタバコの火を消すと、吸い殻をポケットに入れ歩き出した。




