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病室で思う美咲への恋
母親が死んだ病院に着いた彼は、大きく息を吸い込んで美咲が入院している部屋に向かった。美咲の様態はどうなのか。田口のメッセージでは過労で倒れた、ということだった。過労で倒れるということが、どれほどの重さの病気なのか彼には分からなかった。
冷たい感触の病院の廊下を、足早に駆けていく自分が何に焦っているのかは理解出来ない。とにかく無事であってほしい。もう二度と身近な人が死ぬのをみたくはない。少なくとも、今は・・・。
1014号室のドアを開けた。
美咲がベッドの上で管を繋いで寝ている姿が飛び込んできた。その周りには看護師さんが2人、忙しそうに作業をしていた。田口の姿は見当たらない。
「ご親族のお方ですか?」
「いえ、ただの知り合いです」
そう言った彼の心に寂しさが募った。自分と美咲は、ただの知り合いだ。家族でもなんでもない。今、親しくしている仲。友人の妹。それだけの関係。
彼は悔しさと恥ずかしさを同時に覚えた。美咲ともっと親しくなりたい。そんな思いが込み上げてきたからだ。ベッドの上の美咲は眠ったままだ。あの夜、迎えに来た美咲の元気な姿が幻のようだった。




