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田口が失踪したのか現場は混乱
数カ月が過ぎたある日、彼が現場行くと職人たちが集まって話し込んでいた。珍しいな。普段なら仕事の準備に取り掛かっている職人たちが、今日は何も用意していない。彼も職人たちの中へと入っていった。軽く挨拶すると、職人たちは無言で彼の顔をみつめた。
「どうかしたんですか?仕事、はじめましょうよ」
「・・・今朝、資材を取りに事務所に行ったんだよ。そうしたらドアの鍵が掛かって誰もいねえんだ。仕事はじめようにも道具がねえんだよ。どうしたもんかね。お前、なにか聞いてないか?」
彼の頭の中に田口のあの夜の言葉がよぎった。会社の経営難のことだ。まさか、こんな早くダメになったのだろうか。この話を彼は職人たちに伝えるべきかどうか迷った。まだ確定はしていない。伝えるのは早計なような気もした。
「ちょっと缶コーヒー買ってきます」
彼はそう言って職人たちから離れる口実を作った。自動販売機の前に来た彼は、ポケットからスマホを取り出し田口に連絡を取ろうとした。呼び出し音だけが虚しく聞こえてくる。田口は電話に出ない。責任はどうしたんだよ田口。心のなかで彼は田口を責めていた。
朝の冷たい風が、忙しい顔を見せて怒っているかのようだった。




