田口の意外な言葉に絶句する
ある日、現場で仕事をしている彼の元に田口が近寄ってきた。また居酒屋にでも行く誘いか何かだろうな、と思いながら田口を横目でみていた彼は、借金のことで頭がいっぱいだった。
「ちょっといいか?話したいことがある」
彼は首を縦に振り、田口と一緒に現場を離れた。なんだろう?話って・・・。会社の経営が危ないことだろうか。それなら何かの役に立ちたいとは思っているが、現状の自分に出来ることは限られている。無力な自分に申し訳なくなった彼の心中は、横にいる田口の顔をみることを憚らせた。
現場から少し離れた自動販売機の前で二人は止まった。田口が小銭を入れて、2つ缶コーヒーを買った。1つを彼に渡すと、田口はコーヒーを飲みながら横にあるベンチに座った。彼もそれに倣ってベンチに座る。
「話ってなんだ?会社の経営のことなら何か俺に出来ることがあれば言ってくれ。少しでもお前の役に立ちたいと思ってるんだ。雇ってくれた感謝の意味合いも込めてだな」
「いや、そうじゃない。お前、今借金の残りいくらだ?それを俺が肩代わりしようと思ってだな。どうだ悪い話じゃないだろ」
彼の心は一瞬浮足立ったが、すぐに自分をたしなめた。ここまで田口に甘えてもいいんだろうか。自分の責任を取ってもらうことに、どこか恥ずかしさと情けなさが入り混じった感情を覚えた。彼は返事をすぐにはしなかった。二人の間に沈黙が流れた。
「ちょっと考えさせてくれ」
彼は缶コーヒーを飲み干し、空を見上げた。雲が自分を笑っているような気がした。なんてちっぽけな存在なんだろうか、自分は。




