役に立ちたいなんて思う以外な正義
彼も一緒に美咲に送ってもらうことになった。居酒屋を出た3人は、無言で駐車場に向かった。冷たい風が酔った肌に気持ちよかった。美咲と田口が歩く姿を後ろから眺めていた彼は、急に寂しさが込み上げてきた。自分にはもう家族と呼べるものはないのだと、感傷的な気分になったのだ。
車の中で田口が口を開いた。倒産するかもしれないことを、彼に告げた旨、美咲に伝えるためだ。
「会社が危ないことはもう言ったよ。隠しても仕方ないことだからな」
「・・・そう。お兄ちゃんが悪いわけじゃないと思うよ。でも責任はあると思うの。社員の生活のこととかね。」
彼はその会話を黙って後部座席で聞いていた。生まれて初めて誰かの役に立ちたいと思った。この二人が困っているなら、何か自分に出来ることはあるのだろうか。その思いを伝えるのは、あまりにも無責任な気がして彼は口を閉ざしたままだった。
車が彼の家の前で停まった。
「じゃあまた明日、よろしく頼むよ。会社のことは気にしないでくれ。まだ仮の話だからな。」
「おやすみなさい。ごゆっくりお身体休めて下さいね」
彼は美咲と田口にお礼を言って車から降りると、走り去るテールランプに手を振った。哀しみと喜びが混ざる夜の風は、彼にとって懐かしい記憶を刺激するものだった。この夜のことは、忘れないだろう。彼は唇を噛み締めた。




