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弱い酒でもうまい夜に乾杯
その日、彼は田口と居酒屋に向かった。仕事終わりに田口から声をかけてきたのだ。普段は現場に顔をあまり出さない田口が、この時は珍しく昼から付きっきりだった。彼は居酒屋に田口と行くことが嬉しくて、仕事にも精を出した。
「俺の行きつけの居酒屋でいいか?お前、飲めるほうか?今夜はゆっくりやろう」
「いいけど、あんまり飲めないよ俺」
彼の身体は多くのアルコールを摂取することには苦手な方にできていた。若い頃からアルコールを飲むと、すぐに気持ち悪くなり気持ちのいい酔いというものを経験したことがなかったのだ。顔もすぐに赤くなる。アルコールに弱い、というのを一種のコンプレックスに感じていた彼は、映画でみるアルコールに強い男たちに憧れていた。
居酒屋に着いた二人は、カウンターに並んで座った。彼は、なんだか照れくさくて動きがギクシャクしていた。田口の方をみると、精錬された顔つきに疲れが溜まっているように思えた。
田口には感謝している。今夜は楽しくなればそれでいい。彼を救ってくれた田口のことを、裏切るつもりなんてサラサラなかった。二人はビールを飲み始めた。




