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アビス・グランブルー 〜クラン追放された最底辺ダイヴァー、わたしはやめたくなかった〜  作者: ロートシルト@アビス・グランブルー、第5章完結!
第5章 光の海と闇の海

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第88話 星を喰らう幻光

 ぼんやりと光るクラゲ型海魔は、触手を伸ばしながら音もなく距離を詰めてくる。

 その進路の先には――


 私が抱えた、保存袋。


(狙いはそれね)


 アストラルの声が、低くなる。


(これは危険よ。ナナミ……逃げることも、考えなさい

 保存袋を手放して逃げれば、助かる可能性は高いわ)


「……」


 一瞬。

 本当に、一瞬だけ。


 その選択が、頭をよぎった。


 けれど。


 私は、左腕に力を込める。


 アームガード越しに、保存袋を抱きしめて。


「アストラル……」


 小さく、息を吸う。


「依頼のために……戦うよ」


(……ナナミ)


「でも……本当に、どうしようもなくなったら」


 視線を、シャイン・レイスから逸らさない。


「その時は、逃げる」


(……分かったわ)


 アストラルの声に、覚悟が滲んだ。


 


 ♢


 


 次の瞬間、私は水を蹴った。


 身体を一気に加速させ、

 右手のブルーランスを――


 一直線に、突き出す。


「――っ!」


 反応は、なかった。


 シャイン・レイスの身体に、

 ランスの切っ先が――


 確かに、当たる。


 手応えも、ある。


 ……はず、だった。


「……え……?」


 次の瞬間。


 ぶよ、と。


 柔らかい水袋を突いたような感触。


 シャイン・レイスの身体が波打ち、

 衝撃を吸収して――


 弾いた。


 ランスが、押し返される。


「……ダメージ、ない……?」


 背筋が、冷たくなる。


(やっぱり……)


 アストラルが、即座に分析する。


(普通の攻撃じゃ、通らない)


 ――その刹那。


 シャイン・レイスの触手が、

 鞭のようにしなって飛んできた。


「――っ!」


 私は、咄嗟に身体を捻る。


 頬をかすめて、光の触手が通り過ぎる。


 水流が、震えた。


(触れたら終わりよ!)


「分かってる……!」


 距離を取ろうとした、その時。


(魔力を大きく込めた一撃……

 それか、核を正確に狙わないと、難しいわ)


「核……?」


 私は、シャイン・レイスを睨む。


 半透明の身体。

 どこにも、はっきりした核は見えない。


「……身体、透明だよ……」


「どこに核あるか、分からない……!」


(だから、現実的なのは前者ね

 魔力を込めた一撃よ)


 私は、歯を食いしばる。


「……躱されなければ、ね……」


 


 ♢


 


 深く、息を吸う。


 右腕に、魔力を集める。


 ブルーランスが、深く蒼い光を帯びる。


「……っ、いくよっ……!」


 狙いを定め――


 振るう。


 その瞬間。


 シャイン・レイスの触手が、

 水を強く打った。


 ――ドン、と。


 爆ぜるような水圧。


「――速っ!?」


 一瞬で距離を詰め、

 次の瞬間には、視界から消える。


 攻撃は、空を切った。


(急推進……!)


 アストラルの声が、鋭くなる。


(動きも、速いわ!)


「……っ、厄介すぎる……!」


 その時だった。


 


 ♢


 


 視界が、揺らいだ。


 深海の闇が、柔らかく歪み――


 そこに。


 心の拠り所となっていた金色の淡い光が、突如として現れる。


「……え……?」


 胸が、締め付けられる。


 半透明の、小さな身体。

 弱々しく、揺れる触手。


 その光は――


「……ル……ルミナ……?」


 アビスリフトに呑まれた先の深海で、あの時に出会った。

 私を生存に導いた、淡い光。


 助けを求めるように、

 小さく、淡く――発光している気がした。


「……ルミナ……?」


 身体が、動かない。

 視線が、釘付けになる。


(ナナミ……!?いけない!幻覚を見せられている……!しっかりしてナナミ!)


 アストラルの声が、遠い。


 その瞬間。


 


 ♢


 


 背後で、水が鳴った。


 冷たい感触が――

 首筋に、触れる。


「――っ」


 ぞくり、と。


 触れられた瞬間、

 体の内側が、すうっと冷たくなる。


 力が、抜けていく感覚。


「……っ、なに……これ……!」


 魔力が、吸われている。


(ナナミ、ダメ!離れて!)


 アストラルが、叫ぶ。


(それはルミナじゃない! 魔力を吸う、捕食種よ!)


 私は、歯を食いしばり――

 必死に、振りほどく!


 身体が、重い。


 保存袋を抱えた左腕が、震え始める。


 もがいた末に触手を振り切ることになんとか成功する!


 距離を取り、再びシャイン・レイスと相対する。


「はぁ……はぁ……」


 息が上がっている。魔力を少し奪われたものの、まだ活動は出来そうだ。


(ナナミ!?無事!?保存袋を手放して逃げて!)


 アストラルの声は、いましっかりと届いている。


 ――深い深い海は、優しくなんかない。


 美しい光の裏に、

 明確な悪意が見え隠れしている。


 私は、今。


 本当の意味で――

 試されていた。


──続く

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