第82話 胸いっぱいの言葉
「入りたいです」
その言葉が、はっきりと形になった瞬間。
一拍。
――そして。
「……っ!」
ニーナさんが、目を見開いた。
次の瞬間には、ぱあっと花が咲いたみたいに表情が崩れる。
「……っ、ナナミちゃん……!」
椅子がきしむ音も気にせず、身を乗り出して。
「ほんと……!?」
「今の、聞き間違いじゃないよね……!?」
「……は、はい……」
そう答えた途端。
「やったぁぁぁ!!」
思い切り、喜びの声が弾けた。
まるで、心が通じたことを確かめるみたいに。
両手を胸の前で握りしめて、嬉しそうに笑う。
「……来てくれるって、信じたかった……」
「でも……ちゃんと、聞けて……」
少し、声が震えている。
その様子に、胸がきゅっとなる。
――と。
「うおおおおお!!」
突然、横から大声。
「っ!?」
驚いて振り向くと――
「よっしゃあああ!!
待ってたぁぁぁ!!」
ホープさんが、両腕をぶんぶん振り回して立ち上がっていた。
「マジで!?
ほんとーに!?
ナナミちゃん、ウチに入ってくれるの!?」
「……は、はい……」
「最高!!」
テーブルを叩きそうな勢いで、叫ぶ。
「だってさ!
ナナミちゃん、強いし! 真面目だし!
一緒に潜ってて、めっちゃ安心するし!」
「それに!」
急に、ニヤッとした顔になる。
「ニーナなんてさぁ……
クランホームで、ずーっと言ってたんだぜ?」
「『ナナミちゃん……うちに来てくれないかな……』
『嫌じゃなかったかな……』
『無理させてなかったかな……』って!」
「……っ!!?」
一瞬。
空気が、止まった。
「ホープ!!」
次の瞬間、ニーナさんの顔が真っ赤になる。
「な、なに言ってるの!?
それ、言わなくていいでしょ!?」
「えー?
だって事実だし?」
「だ、黙っててって言ったじゃない!!」
慌ててホープさんの腕を叩くニーナさん。
耳まで赤い。
「ちょ、ちょっと……!
ナナミちゃん、今のは……!」
「……ふふ」
思わず、笑ってしまった。
胸の奥が、じんわり温かい。
(……そんなふうに……)
知らないところで。
ちゃんと、想ってくれていた。
「こらこら、ホープ」
そこで、グレイスさんが苦笑しながら口を挟む。
「少しは落ち着きなさい、びっくりするでしょう?」
「えー?
でもこれは落ち着いてられないでしょ!」
ホープさんは、全然反省していない。
「ニーナも俺も、ずっと来てほしかったんだし!」
「それに!」
ちらっと、私を見る。
「ナナミちゃんが来てくれたらさ
潮騒の宴、もっと強くなるし!
もっと楽しくなるし!」
「……うん」
ニーナさんが、深く頷いた。
まだ少し照れた顔で。
「改めて言うね」
「ナナミちゃん」
「潮騒の宴へ……」
にっこりと、笑って。
「ようこそ」
胸が、いっぱいになる。
言葉が、出ない。
ただ、何度も頷いた。
「……ありがとうございます……」
その時。
(良かったわね、ナナミ)
アストラルの声が、優しく響いた。
(本当に……)
(良い仲間に、巡り会えた)
「……はい……」
心の中で、そっと答える。
海辺の子ブタ亭の灯りが、
揺らめきながら、私たちを包んでいた。
ここが――
私の、居場所。
──第4章、居場所 完
【ナナミのお財布】
金貨30枚
銀貨52枚
銅貨22枚
※打ち上げで銀貨1枚支出
これにて第4章、閉幕です!
ここまでアビス・グランブルーを閲覧いただきありがとうございます。
明日から第5章へ突入していきます。
ロートシルト




