第76話 四人揃っての海へ
潮騒の宴の三人の前に立つと、
ニーナが真っ先にナナミの装備に目を留めた。
「……あれ?」
「ナナミちゃん、装備……新しくなってるね……?」
「……はい……!」
ナナミは、少し照れながら頷く。
すると、横からホープが身を乗り出した。
「あっ! それ、スケイル・フィッシュの素材だよね!」
「この前、俺運んだやつ!」
「えっ……?」
ニーナが目を丸くする。
「ナナミちゃん、ホープと二人で……?
私には声掛けてくれなかったの……!?」
「ち……ちがうよニーナさん。一人で潜ったとき帰りにたまたまホープさんと会って、ホープさんが荷物運んでくれたの……」
そう言って視線を逸らすナナミにグレイスが穏やかに笑った。
「ブロンズ級、昇格おめでとう。ナナミちゃん」
「……!」
胸が、きゅっと鳴る。
「……ありがとうございます……グレイスさんが昇格推薦してくれたって、聞きました」
「ふふ」
グレイスは、軽く肩をすくめた。
「ブレイカーには声を掛けたけどね
実際に昇格できたのは、ナナミちゃんの実力だよ」
「……!」
ホープも、うんうんと大きく頷く。
「そうそう! この前もさ、ナナミちゃん
深いところまで潜って、スケイル・フィッシュ倒してたんだよ!」
「俺が港で釣りしてた時に、ちょうど上がってきてさ!
本当だよ、ニーナ!」
「ええっ……」
ニーナは、驚いたようにナナミを見る。
「……もう、そんなに潜ってるの……?」
ナナミは、少しだけ迷ってから答えた。
「……その依頼の時に最大で……深度165くらい、です……」
「そりゃブロンズ級に問題なく、なれるよね!」
ホープは笑いながら自分のことに喜ぶ。
その空気を切り替えるように、
グレイスが依頼板へと視線を移した。
「さて……今日の依頼、どうしようか」
ホープが、指差す。
「この辺は?」
「採取系が多いね!」
グレイスは、いくつかの依頼書に目を通し──
一枚で、動きを止めた。
「……ん」
依頼書を、じっと見つめる。
「鉱脈調査か……」
「内容は良いけど深度230……ちょっと深すぎるかも」
その呟きに、ナナミの胸が跳ねた。
──深度230。
そして、依頼内容の一文。
《副次目標:
白銀鉱が混じる可能性あり(確率低)》
「……」
ナナミの視線が、そこに吸い寄せられる。
気づけば──
口が、先に動いていた。
「……行きたい、です……」
「……え?」
三人が、同時にナナミを見る。
グレイスは、少しだけ眉を寄せた。
「ナナミちゃん……深度230は、まだ……ブロンズ級になったばかりのナナミちゃんには、荷が重いかもしれない」
その言葉に、ナナミはぎゅっと拳を握る。
でも──
「……!」
ホープが、すっと一歩前に出た。
「でもさ!ナナミちゃん、もう165まで潜ってるんだよ!」
「しかもソロで! スケイル・フィッシュも討伐してる!」
「だから……きっと、行けると思う!」
「ホープ……」
グレイスは、少し考え込むように目を伏せる。
ニーナは、黙ったままナナミを見ていた。
その視線は、責めるでもなく──
試すでもなく。
ただ、静かに“見極める”ようで。
「……」
やがて、グレイスが息を吐いた。
「……わかった。これを受けよう」
「ただし」
真剣な声。
「ナナミちゃん、無理は絶対にしないこと
魔力が辛くなったら、すぐ言って。判断は私がする」
「……はい……!」
ナナミは、深く頷いた。
「ありがとうございます……!
……頑張ります……!」
その様子を見て、ニーナがふっと微笑む。
「じゃあ、決まりだね」
「今日は、鉱脈調査だ」
* * *
受託手続きを終えた四人は、
揃って港へ向かう。
潮の香り。
きらめく水面。
ダイヴの準備完了し、ナナミは海の前で胸いっぱいに息を吸った。
(……白銀鉱……)
期待と、不安と。
その両方を抱えながら。
(落ち着いて)
(今日は“探す”日よ)
アストラルの声が、静かに響く。
ナナミは、ゆっくりと頷いた。
「……行ってきます……」
潮騒の宴。
四人揃ってのダイヴ。
深度230を目指して──
新しい海が、待っている。
──続く。




