第七話 深奥にて、力の代償
ナナミ視点へ戻ります
遺跡の奥へ進むにつれて、空気――いや、水の流れが変わっていくのが分かった。
広い空洞よりも狭い通路が増え、壁に刻まれた古代紋様が淡く光り、ぼんやりとした視界を照らす。
「なんだろう……ここ、外より“息苦しい”……?」
魔力の流れが乱されるような圧を感じつつ、ナナミは慎重に進む。
すると、背後でふわりと光が揺れた。ルミナが警戒を示す時特有の揺れ方だ。
――来る。
次の瞬間、壁の陰から黒い槍のような影が水を裂いた。
小型海魔――だが、先ほどのエイ型よりも細く鋭い。
高速で突進し、石壁へ穴を穿つ勢いの危険な個体。
「うっ……!」
水流が走った。
海魔が動く“前”の揺らぎ――先ほどの戦闘で掴んだ感覚が、また肌を撫でる。
(来る方向が……分かる!)
ナナミは水の渦へ身体を合わせ――魔力を膜へ集中させる。
すると、まるで水に溶けるようにスッと横へ滑った。
海魔の突進が空を切る。
「よし……!」
すぐ追撃が来る。
影が大きく弧を描き、尾をしならせ再び突っ込んできた。
ナナミは呼吸を整え、魔力膜へ薄い層を追加。
魔力で“身体の後ろ”に水を押し、反発で前へ滑り込む――
まるで一瞬の加速。
「はあっ!」
トライデントの三叉が、海魔の胸を穿つ。
爆ぜるように濁りが広がり、海魔はゆらりと沈んだ。
海魔から出てきた海晶核がコロリと転がる。
ナナミは荒い息を吐き、震える手でトライデントを引き戻す。
「……ふぅ……倒せた……」
小さく光が浮かび、ルミナが安堵するように寄り添ってきた。
ナナミはルミナを撫でる。
ふにふにと、柔らかく温かかった。
「ありがと……ルミナがいてくれたから、動きを読めた」
その瞬間。
――ピシ……ッ。
魔力膜に走る、小さなひび。
「えっ……うそ……!?」
戦闘で魔力を消耗しすぎた。
このままでは膜が破れ、深海の圧が身体を潰す。
「くっ……ダメ……もう少し……もって……!」
焦りで魔力を集中させるが、ひびは広がる一方。
ナナミは顔を歪め――その時。
ルミナが強く光った。
「ルミナ!? ま、待って――!」
触れた瞬間、温かな魔力がナナミへ流れ込む。
膜のひびがふわりと消え、再び安定を取り戻した。
「あ……助かった……ほんとうに……」
だが、喜びの直後、ナナミは息を呑む。
「……ルミナ?」
さっきより――明らかに小さい。
会った時は子供くらいの大きさだった姿は、今やナナミの頭ほどの大きさに縮んでしまっている。
「そんな……魔力を分けすぎたの……?」
ルミナは光で「気にしないで」と告げるように揺れた。
だけど、その輝きはどこか弱々しい。
胸の奥がきしむ。
「ルミナ……私を助けてばかりじゃ、ダメなんだね……」
ナナミは膝をつき、両手でそっとルミナを受け止める。
「あなたを……失いたくない。
だから……私、もっと強くなる。
自分の膜くらい、自分で守れるようにならなきゃ……!」
その言葉に、ルミナは小さな身体で力いっぱい光を明滅させた。
「大丈夫」「信じてる」
そんなメッセージが痛いほど伝わってくる。
ナナミはゆっくりと立ち上がり、海魔が落とした海晶核を拾いつつ遺跡の奥を見据えた。
「行こう、ルミナ。
ここを抜けて、生きて帰るために……私が強くなるために」
ナナミが駆ける影が伸びる。
古代の壁に刻まれた紋様が、彼女たちの通過に反応するように淡く脈動した。
そしてナナミは、ルミナを守るように胸元へ抱き、再び歩き出す。
深海の遺跡は静まり返った通路を駆け抜けていった。
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