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アビス・グランブルー 〜クラン追放された最底辺ダイヴァー、わたしはやめたくなかった〜  作者: ロートシルト@アビス・グランブルー、第5章更新中!
第4章 居場所

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第64話 砕けぬ鱗、孤独な深度

 スケイル・フィッシュが、低く唸った。


 ブォォォォ……


 水そのものが震えるような、重たい咆哮。

 音というより、圧が直接身体を叩いてくる。


「……大きい……」


 ナナミの視界いっぱいに広がる魚影。

 胴体は、鉱石を食い続けた結果なのか──

 岩の塊を無理やり魚の形にしたような、異様な姿だった。


 鱗は一枚一枚が不揃いで、

 それでいて隙なく噛み合い、装甲のように重なっている。


(気をつけて)


 アストラルの声が、わずかに硬くなる。


(あの鱗……防御が異常に高いわ)


「……試してみる」


 ナナミは、距離を詰めた。


 ブルーランスに魔力を巡らせ、

 狙いやすい胴体中央へ、鋭い突きを放つ。


「──っ!」


 ギィンッ!!


 甲高い金属音が、水中に響いた。


 次の瞬間、強烈な反動。

 槍が弾かれ、腕が痺れる。


「……っ、硬い……!」


(想定以上ね)


 アストラルの声は冷静だった。


(表層の鱗が、ほぼ鎧)

(正面からの突きじゃ、通らない)


 スケイル・フィッシュは、悠然と身を揺らす。

 効いていない。


 次の瞬間、

 巨大な尾が、横薙ぎに振るわれた。


「──くっ!」


 ナナミは慌てて距離を取る。

 尾が通った後、海流が乱れ、身体を押し流す。


 水圧と衝撃が重なり、肺がきしむ。


(幸い……まだ魔力はあるけど……)


 その時だった。


 スケイル・フィッシュが、再び口を開く。


 今度は、明確な咆哮。


 ゴォォォ……!!


 低く、長い振動が、藍の海へと広がっていく。


「……なに……?」


 嫌な予感が、背筋を撫でた。


 闇の向こう。

 影が、増えていく。


「……っ、シェード・フィッシュ……!」


 一体、二体──

 三、四……五体。


 黒い魚影が、音に引き寄せられるように集まってくる。


(……呼び寄せ能力ね)


 アストラルが即座に判断する。


(数で削るつもり)

(単独だと、かなり厄介よ)


 スケイル・フィッシュは、動かない。

 まるで王が玉座に座るように、中央に陣取ったまま。


 代わりに、

 シェード・フィッシュたちが、一斉に襲いかかってくる。


「……っ!」


 ナナミは、迎撃に転じた。


 突く。

 払う。

 間合いを詰め、また引く。


 一匹目を突き落とし、

 二匹目を払って裂く。


 三匹目は背後から──


「……そこ!」


 身体をひねり、反射的に突き返す。


 影が散る。


 だが、息を整える暇はない。


 四匹目、五匹目が、同時に距離を詰めてくる。


(落ち着いて)


 アストラルの声が、静かに支える。


(動きは単純)

(流れを読むのよ)


 ナナミは、魔力を循環させる。


 溜めない。

 流し続ける。


 脚、体幹、腕へと均等に。


「──っ!」


 踏み込み、回転。

 ブルーランスが円を描き、影を断つ。


 最後の一匹が、抵抗する間もなく沈んでいった。


 周囲に、再び静寂が戻る。


「……はぁ……」


 ナナミは、ゆっくりと息を吐いた。


(……処理は、できる)


 けれど、確実に削られている。


 深度165。

 動くたび、魔力と体力がじわじわと奪われていく。


「……このままじゃ……」


(焦らないで)


 アストラルの声が、ナナミを引き戻す。


(敵は“硬い”けれど、不死身じゃない)

(必ず、崩せる場所がある)


「……どこ……?」


 ナナミは、スケイル・フィッシュを見据える。


 岩のような鱗。

 だが、完全ではない。


 鰓の付け根。

 動くたび、わずかに鱗がずれる部分。


(……あそこ)


 だが、問題は明白だった。


 近づけば、

 また小型海魔を呼ばれる可能性が高い。


 深度165。

 撤退という選択肢が、脳裏をよぎる。


 それでも──


(ナナミ)


 アストラルの声が、静かに、しかし強く響いた。


(防御を崩すには、守りに回り続けちゃダメ)

(ここからは……攻勢よ)


「……っ」


 ナナミは、ブルーランスを強く握り直す。


 胸の奥で、

 訓練で叩き込まれた感覚が、はっきりと蘇る。


 まだ、魔力は残っている。

 身体も、動く。


 深度100を超える海は、確かに厳しい。


 でも──


 ここで、引くわけにはいかない。


 ナナミは、一歩、前へ踏み出した。


 蒼の槍を掲げ、

 “守り”から“攻め”へと切り替える。


 次の一手を、

 自分で選ぶために。


──続く。

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