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アビス・グランブルー 〜クラン追放された最底辺ダイヴァー、わたしはやめたくなかった〜  作者: ロートシルト@アビス・グランブルー、第二章毎日20:00更新
第一章 深淵での出逢い

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閑話 エクセイルの苛立ち

今回はナナミを追放した元上司のエクセイル視点です。

 ナナミが追放された翌朝、アクア・ヘイブンの空気は妙に静かだった。


 本来なら朝一番の作業音が響き、走る作業員の声が交差している時間帯。だが今日は、海を見つめる者たちのざわめきが遠く薄く続くだけだ。


 昨夜、海域の観測班が「渦の反応」を記録した──その噂は、船上都市全体を不安で染めていた。


 そんな中、エクセイルはいつもの軽い足取りではなく、重い靴音を響かせながら現場へ向かっていた。


「……まったく、厄介な朝だ」


 不機嫌そうに額へ手を当てる。


 アビスリフトなど本来この海域には発生しない。海底地形が安定しているため、深層魔力の噴出が起こりにくいと言われている。


 それでも観測班が反応を記録した以上、確認しないわけにはいかない。


 桟橋の端へ近づくと、先に到着していた部下が振り返った。


「エクセイル隊長! 状況を報告します」


「簡潔に」


「はい。昨夜未明、アクア・ヘイブンの外縁、南側の海域にてアビスリフト反応を観測。規模は“小~中”の間ですが……」


 言葉を濁す。


「“発生位置”が例外的です」


 それはエクセイルも既に気づいていた。

 近すぎる。こんな場所で発生するのは聞いたことがない。


「住民の転落者は?」


「……今のところ、報告はゼロです。ただ──」


 部下の視線が、崩れた桟橋の端へ向かう。


「これを見てください」


 エクセイルは歩み寄り、無残に割れた桟橋の板を見下ろした。


 そこには黒焦げの跡のような、魔力の痕がわずかに残っていた。


 そして──


「……足跡だな」


 桟橋の湿った木板に、女性のものと思われる小さな足跡がいくつも残っていた。


 深さの違う跡が乱れている。


 走って、逃げて、滑って──


 最後は、海へ向かって消えているように見えた。


 さらに視線をずらすと、荷物が散乱していた。

 ポーチ、ノート、薄い布袋。紐のついたピンク色の水筒。中身は水に濡れてぐしゃりと膨れ、いくつかは桟橋の外へこぼれ落ちていた。


 そのどれもが、エクセイルには見覚えのある物だった。

 

(……ナナミの、か)


 昨日、雑務係として役立たずだと判断し、我がバニッシュより正式に追放を言い渡した少女。

 涙を浮かべ泣きそうになっていた瞳、そして立ち去った小さな背中。


 今、その痕跡が海へ続いている。


「転落した可能性が……?」


「……わからん」


 エクセイルは静かに答えた。


 わからない──だが、“足跡は一人分”、そして“荷物は彼女の物”。


 この二つが意味することは明白だった。


 部下が言いにくそうに続けた。


「アビスリフトへ落下した場合……もし誰かがいたなら、救助は……」


「言うな」


 短く切る。


 アビスリフトに呑まれた者は帰らない。

 根拠のある常識だ。


 だがエクセイルは、胸の奥に不快なざらつきを覚えていた。


 後悔ではない。


 ただ──“気になる”。


「事故死……で処理するのが妥当、か。だが」


 この痕跡は――誰かが抵抗する間もなく、何かに“引きずり込まれた”ように見える。


 自然現象にしては、あまりに不自然だ。


 エクセイルは沈んだ海面を見つめる。

 今はもう落ち着いている波がわずかにうねり、海に昨夜の痕跡はほとんど残っていない。


 静かに、冷淡に、彼は言った。


「……足跡を記録し荷物を回収しろ。」


 喉の奥で言葉が止まる。


 昨夜の渦。ナナミの失踪。足跡の途切れ。

 散乱した荷物。


 これらが“偶然”で片付くなら、それでいい。

 そう考えようとするほど、違和感の輪郭が濃くなる。


 エクセイルは苛立たしげに髪をかき上げた。


「生きている……? いや、ありえん」


 だが、否定する速度が速すぎた。

 その反動のように、不吉な予感が胸の奥に沈む。


 アビスリフトに呑まれた者は、二度と浮上しない。

 それがこの都市の常識であり理だ。過去に一度たりとも例外は無い。


 ……なのに。


「もし、仮にだ。もし生き延びていたとしたら――」


 言いかけて、もう一度かぶりを振る。


「あの女に、そんな力はない。はずだ」


 最後の一語だけ、奇妙に弱くなった。


 崩れた桟橋を見下ろす彼の表情には、後悔など欠片もない。

 ただ、“理屈では説明できない厭な予感”だけが、深海の冷たさのようにじわりと背筋を撫でていった。


 ♢



 キャラクター紹介

 名前:エクセイル・フォルド

 性別:男性

 年齢:28歳

 経歴:バニッシュ所属の潜海師〈ダイヴァー〉隊長

 海魔討伐クラン〈海神〉の下部組織〈バニッシュ〉のリーダー兼隊長

 魔力量が多くダイヴァーとして一線を画す技能を持つ。

 そのためバニッシュのリーダーとして抜擢された。

 自身の能力は高いが、他者にも厳しい。

 

挿絵(By みてみん)

明日も20時更新です!


続きが気になる!早く読みたい!など思いましたら是非とも★★★★★評価お願いします⸜(*˙꒳˙*)⸝

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ハイファンタジー
― 新着の感想 ―
追放からスタートしますが、その後はとても独特の世界観が広がっていて、とても引き込まれます。深海が舞台という設定から、すぐに訪れる危機と不思議な出会い。 表現するのが難しそうなテーマですが、メリハリの効…
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