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アビス・グランブルー 〜クラン追放された最底辺ダイヴァー、わたしはやめたくなかった〜  作者: ロートシルト@アビス・グランブルー、第四章も毎日20時更新!
第四章 居場所

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第五十八話 黒藍の秘密

 潮風に揺れる看板をくぐり、ナナミはそっと扉を押した。


 チリン──と小さな鈴が鳴り、

 油と金属と、海藻繊維の落ち着いた香りが迎えてくれる。


「いらっしゃい──あら、可愛い子。また来てくれたのね」


 聞き覚えのある艶めいた声。

 奥の作業台から振り返ったその人を見て、ナナミは思わず足を止めた。


「フィアスさん……?」


 以前と変わらぬ金髪、深藍色のスーツ。

 だが──大きく違う。


 以前着用していた右眼の眼帯が、ない。


 そして露わになったその瞳は──

 左は海の浅瀬のような澄んだ青。

 右は深海を思わせる、濃く沈んだ黒藍。


 オッドアイだ。


「えっ……フィアスさん……その、目……?

 眼帯、どうしたんですか……?その瞳……すごく綺麗……」


 ナナミの声は驚きと戸惑いで揺れていた。


 フィアスは唇に艶やかな笑みを浮かべ、指先で右目を軽くなぞった。


「ふふ……ヒミツよ」


「ひ、秘密……?」


「ええ。まぁ、いつか話してもいいかもしれないけれど……今日はまだね」


 軽く煙に巻くような調子。

 しかし、あの瞳には確かに“生命”と“魔力”が宿っている気がして──

 ナナミは言葉を失った。


(あの眼……’’義眼’’ね)


 脳裏に流れるアストラルの声にナナミはハッとなるが、フィアスの声で正常になる。


「それで?また可愛い子が一人で来るなんて、今日はどうしたの?」


「あ、それが……!」


 ナナミは胸を張って言う。


「ワン・アイドの撃退戦に参加しました!」


 フィアスの動きがぴたりと止まる。


「あら……あの厄介なネームド海魔の? こないだ装備買ったばかりのルーキーのあなたが?」


「はい! 潮騒の宴のみなさんと一緒で……グレイスさん、大きなハープーンで眼を貫いて──!」


「……ふぅん」


 フィアスの片眉が上がり、興味深そうにナナミを舐めるように観察する。


「よく見たら、もうブロンズ級なのね。

 ますます可愛いだけじゃなくて強いじゃない、あなた」


「そ、そんな……!」


(ナナミ、照れてる場合じゃないわよ。話を続けなさい)


「アストラル……う、うん!」


 ナナミは気を取り直し、真正面からフィアスを見る。


「その……ワン・アイドの戦いを観て思ったんです。

 いずれ、もっと強い武器が必要になるかもしれないって……」


 フィアスは腕を組み、頷く。


「そうね。光海帯だけなら今のスピアーランスで十分。

 でもその先、暗海域を目指すなら……もっと“深い光”が必要になるわ」


 彼女は歩いてショーケースの前に立つ。

 並んでいるのは見事な槍やトライデント。どれも魔力導管が複雑に走っている。


「このあたりね。

 暗海域クラスの武器……金貨50枚。

 こっちは70枚」


「──っ」


 ナナミは青くなる。


(高いわね……ナナミ。今の金額じゃ厳しいわ)


「うぅ……アストラル……」


 フィアスは苦笑しつつ指先を踊らせた。


「素材を持ち込めば、少しは安くしてあげられるわよ?

 可愛い子には特別にね」


「素材……!」


 ナナミは慌ててゴソゴソ鞄をあさり、マリモで採掘した青鉱石を取り出す。


「これ、使えますか?」


 フィアスは受け取ると、光に透かして微笑んだ。


「青鉱石ね。悪くないわ。

 これ単独では武器には出来ないけれど──」


 トン、とナナミのスピアーランスの柄を指で叩く。


「今あなたが使ってるランスを“補強”することならできる。

 費用は……金貨1枚。今預かれば明日の朝には出来るわ」


「お願いします!!」


(即決ね。いい判断よ、ナナミ)


 フィアスがナナミから受け取ったスピアーランスを作業台へ運ぼうとしたそのとき──


(ナナミ、ちょっと待って。

 海晶核も武器の素材になるわよ。

 深海層の海晶核……まだ持ってるわね)


「え……でも……あれは……!」


(隠しておくのはいいけれど、

 “この店主なら扱える”。私はそう思う)


 ナナミは唇をぎゅっと噛む。


「……フィアスさん」


「なぁに?」


「その……ひとつ、見てもらいたいものがあって……」


 ナナミは震える手でポーチを開き、

 深海層の──黒藍に脈打つ海晶核をひとつ、そっと置いた。


 作業台の光が一瞬、かき消されるほどの濃い輝き。


 フィアスの呼吸が止まった。


「………………」


 瞳が、大きく見開かれる。

 普段の妖艶な女主人ではなく、かつて海を渡り歩いた“本物のダイヴァー”の顔。


「これ……あなた……どこで……?」


 声は震えていた。


 フィアスの右眼──、光を受けて小さく脈動する。


 フィアスの喉が、ごくりと鳴った。


「……深海級……純度……この跳ねる魔力……

 本物……しかもこれ……」


「……先日のものと同じ。貴女だったの」


 最後のフィアスの言葉は小さく掠れ、ナナミは聞き取れなかった。


 ナナミはおずおずと聞く。


「これで……なんか……武器、作れませんか……?」


 フィアスは、言葉を失ったように震えながら、ゆっくりと口角を上げた。


「──可愛い子」


「は、はい……!」


「あなた……本当に……とんでもない子ね……」


 右目の黒藍光が、静かにきらめく。


 フィアスは息を呑んで、ゆっくり首を振る。


「私なら扱うことができるわ──けれども“核”だけでは作れないわ」


「え……」


「この魔力は強すぎる。スピアーランスでは耐えきれない。

 受け止める“器”が必要なの。

 白銀鉱……できれば高純度のものが」


 そして、フィアスは優しく微笑んだ。


「でもね。あなたが本気で望むなら──

 私が必ず形にしてあげる。

 だから……あなたの武器も、きっと造れるわ」


 ナナミの胸に、熱いものが込み上げる。


「白銀鉱……必ず探してきます……!」


「ええ。可愛い子。待ってるわ」


 その声は、深海の静けさのようにあたたかかった。


──次回へ続く。


 【ナナミのお財布】

金貨24枚

銀貨24枚

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