第五十七話 認められた証
潮風が吹き抜ける桟橋通りを歩き、
ナナミは白壁の大きな建物──ダイヴァーズギルドへと足を踏み入れた。
大広間には、朝の依頼を受けに来たダイヴァー達がちらほら。
昨日の騒ぎが嘘みたいに、穏やかな空気が流れている。
「……ミストさん、おはようございます」
ナナミが受付へ近づくと──
藍色の髪をきれいにまとめた受付嬢・ミストが書類をめくっていた手を止め、ぱっと顔を上げた。
「あ、ナナミさん。
こんにちは。昨日は……ワン・アイド撃退から、無事に戻られて本当に良かったです」
その声音には安堵が滲んでいた。
「はい……!
潮騒の宴の皆さんが一緒に戦ってくれて……わたし、すごく助けられました」
ミストはふふっと柔らかく微笑む。
「ナナミさんは、いつも謙虚ですね。
そういうところ……とても素敵だと思いますよ」
「えっ……あ、ありがとうございます……」
いまだに褒められ慣れていないナナミは、赤くなる。
ミストはくすりと喉を鳴らしつつ、机の上の書類を整えると──
いつもの調子で言った。
「では、ナナミさんのアイアン級の潜海証をお預かりできますか?」
「え……?
わ、わかりました……」
首から提げていた鉄色のプレートを外し、ミストへ渡す。
ただの“確認”だと思っていた。
しかし次の瞬間──
ミストは別のプレートをそっと取り出し、ナナミに差し出した。
銅色に輝く、美しいプレート。
「──え?」
ナナミは反射的に受け取り、目を落とす。
そこに刻まれていたのは──
《ブロンズ級──ナナミ・マリーネラ》
自分の名。
そこに刻まれるのはアイアン級より一段階上の階級。
間違いなく……自分のもの。
震える指で、文字をそっとなぞる。
「え……わたし……?
これ……わたしの……?」
「はい。ナナミさんは今日からブロンズ級ダイヴァーです。
おめでとうございます」
「……っ!」
胸が一気に熱くなる。
信じられなくて、でも嬉しくて──
大きく目を見開いたまま、言葉が出ない。
そんなナナミに、ミストは優しく説明した。
「依頼を高スコアでの連続成功。海魔の多数撃破と海晶核納品。
緊急ミッション……ワン・アイド迎撃戦での戦闘貢献。
そして──潮騒の宴クランマスター、グレイスさんからの推薦」
ナナミの肩がビクリと震える。
「グ、グレイスさんが……?
わ、わたしの……推薦……?」
「ええ。
“既にアイアン級に留まらない実力が確実にある。保証する”と。グレイスさん、実はああ見えて厳しいから推薦なんて初めてです……すごいことですよ!」
「……っ、そんな……」
胸の奥がじわじわ熱くなり、
視界がうるんでしまいそうになる。
そのとき──
(良かったじゃない、ナナミ。
あなたの力が、ちゃんと誰かに届いているわ)
アストラルの声が優しく響く。
「アストラル……うん……!」
ナナミが涙を拭う前に、
背後から太い声が投げられた。
「──おい。泣くのはまだ早ぇぞ、ナナミ」
「っ!? ブレイカーさん!」
振り向くと、筋骨隆々の男、ブレイカーが腕を組んで立っていた。
いつもの無愛想な顔のくせに、どこか誇らしげだ。
「やったな。
お前ならいずれこうなると思ってたぜ」
「ほ、本当ですか……?」
「本当だ。
だが──ここからが本番だ。
ブロンズにもなりゃ、依頼の質も変わる。
まだまだ気を抜くんじゃねぇぞ」
「……はいっ!」
叱咤というより、背を押す激励の言葉だった。
ブレイカーは顎をしゃくると、ミストに目を向ける。
「それと、昨日の緊急依頼の報酬だ。
ワン・アイド撃退分、ちゃんと渡してやれ」
「はい。こちらです、ナナミさん」
ミストが木製の小箱を差し出す。
中には銀貨と金貨が混ざって整然と並び──
金貨7枚、銀貨10枚
「こ、こんなに……!?
え、えぇぇ……!」
「当然だろうが。命懸けだったんだぞ」
ブレイカーが鼻を鳴らす。
(ナナミ、これで装備の足しにできるわね)
アストラルの声に、ナナミはぎゅっと拳を握った。
「……ありがとうございます!
わたし、もっと強くなります!」
ミストも、ブレイカーも微笑みながら頷いた。
こうしてナナミはギルドを後にし、
新しい装備を求めて──
グリーンリーフ堂へ向かって歩き出した。
──続く
【ナナミのお財布】
金貨25枚
銀貨24枚




