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アビス・グランブルー 〜クラン追放された最底辺ダイヴァー、わたしはやめたくなかった〜  作者: ロートシルト@アビス・グランブルー、第四章も毎日20時更新!
第三章 アイアン級

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第五十五話 英雄たちの夜

 アクア・ヘイヴンの巨大な海門が見えた時、

 ダイヴァーたちはようやく本当の意味で息をついた。


 ワン・アイドとの激戦からの帰還──

 街の灯火が、まるで「よく戻った」と語りかけてくるかのようだ。


「おおっ、帰ってきたぞ!」

「討伐隊だ、デカい触手を四本も持って帰ってる!」

「街は当分安泰だぞ!!」


 桟橋で待ち構えていた市民たちが歓声を上げる。

 潮と熱気が混じり、帰還の行軍を包み込む。


 その前へ、ギルド副長──ブレイカーが静かな足取りで進み出た。


 腕を組み、鋭い視線が隊の一人ひとりを捉える。


「お前たち……よくやった」


 短い言葉。

 だが、その重さは海底の岩盤より深い。


「ワン・アイドへの大打撃、触手と海晶核の大量回収。

 街への脅威を退けた功績は大きい。

 回収物はギルドで換金し、ランクごとに報酬を割り振る。明日以降に受け取れ」


 たったそれだけの伝達。

 けれど、その一言ひと言が胸に沁みた。


「以上だ。胸を張っていい。

 今日、アクア・ヘイヴンを守ったのは……お前たちだ」


 その瞬間──


「よっしゃあああああ!!」

「宴だぁああああ!!」


 バルバスの豪快な咆哮が、場の空気を強引に祝祭へと変えた。


「会場はネーレウス・クランのクランホームだ!!

 酒も飯も好きに飲め!食え!騒げ!!」


「うおおおお!!」「行くぞーー!!」


 歓声が海風を震わせ、アクア・ヘイヴンの夜は一気に華やいだ。



 ネーレウス・クランのクランホーム──

 そこは熱気と潮騒、笑い声が渦巻く祝祭の渦だった。


 巨大魚の丸焼き、香草で蒸された貝、海藻スープ、揚げた海魔の肝。

 香りだけで酔いそうなほどの料理がテーブルを埋め尽くす。


「ナナミちゃん、この貝むちゃくちゃうまいよ!!」

「ホープ、それ三皿目じゃない?」

「えっ……うまいからいいんだよ!!」


 ホープが頬を膨らませ、ニーナが笑い転げる。

 ナナミはその隣で、幸せそうに微笑みながら皿を抱えていた。


 数時間前は命の危機の真っ只中。

 でも今は──まるで長年の友人のように、三人は自然に寄り添っていた。


「ナナミちゃんのあの横薙ぎ、マジで痺れたよな!」

「わかる!あそこでナナミちゃん居なかったら、たぶん私たち危なかったもん!」


「え、えへへ……そんなことないよ……」


 ナナミが照れすぎて肩を縮め、耳まで真っ赤になる。


 その時だった──


「お? ここにいたのね」


 低く落ち着いた声。


 振り返ると、皿を片手にグレイスが立っていた。


「グレイスさん!」「お疲れさまです!」


 ホープとニーナが嬉しそうに手を振る。


 グレイスは目尻を和ませて微笑んだ。


「ふふ……すっかり仲良くなってるわね」


 視線が自然とナナミに向く。


「ナナミちゃん。最後まで頑張ってくれてありがとう。

 そして……怪我がなくて、本当に良かった」


「っ……」


 ナナミが胸の奥を掴まれたように瞬きを止める。

 その言葉は労いであり、心からの安堵だった。


「そうなんですよ、グレイスさん!!」

「ナナミちゃん、めっちゃすごかったんだから!!」


 ホープとニーナがまるで自分のことのように得意げに胸を張る。


「ちょ、ちょっと二人とも……そんな言わないで……!」


 ナナミの顔は真っ赤だ。


 その隣で──

 今度はシルバー級のガンツとルキアが、皿を持って近づいてきた。


「お、三人まとめてここに居たのか」

「探した」


 ガンツがニカッと笑い、ルキアが優しく視線を落とした。


「アイアンであれだけ動けりゃ上等だ。助かったぜ」

「見てた……良くやった」


「えっ……あ、ありがとうございます……!」


 ナナミの声は震え、目が潤んだ。


「ホープもニーナもだ。

 肝が据わってた。もう二人共、いっぱしの一人前ダイヴァーだな」


 ガンツが豪快に笑い、ルキアが頷く。


「怖くても逃げなかった。それが一番大事」


「う……うん……!」


 ホープとニーナは誇らしげに胸を張り、ナナミも嬉しそうに目を細めた。



 そして──

 宴席の奥から、地響きのような足音。


「おいおーーーーい!!ここに集まってんのは誰だぁ!!」


 テーブルを揺らす勢いで、バルバスが酒樽片手に乱入してきた。


 顔は真っ赤、しかし笑顔は満月のように豪快。


「お前らぁ!!見てたぞォ!!」


 ドンッ!!と酒樽を置き、指を三人へ向ける。


「お前ら、ひよっこのクセに──骨があるじゃねぇかッ!!

 あの第二波で最後まで踏ん張ったの、ちゃんと見てたからな!!」


「えっ!?」「まじ!?」「わ、私たち……?」


「そうだよバカ!!お前らだよ!!ガハハハハ!」


 バルバスの笑い声が、宴をさらに揺らす。


「お前らみたいな若い芽は大事にすんだよ。

 どんどん食え!飲め!今日はアクア・ヘイヴンの英雄様なんだからな!!」


「ええええええ!?!?」「え、英雄!?」

「や、やめてよバルバスさん!!」


 ナナミの顔は完全に熟したトマト色。

 ホープは舞い上がり、ニーナはうれし涙をこぼしそうになっていた。


 グレイスも、ガンツも、ルキアも──

 三人の反応を見て優しく笑っている。


 潮騒が窓の外で静かに鳴り、

 クランホームには笑い声が絶えない。


 戦いは終わり、英雄たちの夜が、今、始まったのだ。


 ナナミたちの胸には、確かなものが芽生えていた。


 恐怖を越えて戦ったこと。

 仲間と呼べる存在ができたこと。

 自分の名前と勇気が、この街の中に少しだけ刻まれたこと。

 


 それは小さな一歩かもしれない。

 でも──大海原へ続く、確かな“最初の一歩”だった。

 


 アクア・ヘイヴンの夜は、祝福に満ちていた。

 


──第三章 終幕。

第三章、完結です。


ここまで読んでいただいて、ありがとう。

ロートシルト

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ハイファンタジー
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