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アビス・グランブルー 〜クラン追放された最底辺ダイヴァー、わたしはやめたくなかった〜  作者: ロートシルト@アビス・グランブルー、第二章毎日20:00更新
第一章 深淵での出逢い

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第六話 ナナミの成長

 どれほど歩いただろう。


 深海の底を進むだけで、常に背後では巨大な影が蠢き、遠くで鈍い衝突音が水を震わせる。海魔たちの咆哮は音にならず、圧となって骨を揺らす。


 時折、小型の海魔が物陰から飛び出すが、ルミナの協力もあり何とか対処し続けた。


 (早く……脱出方法を見つけなきゃ。でないと……ルミナが)


 焦りと恐怖が胸に刺さる。だが歩みは止めない。止めたら終わる。


「この先……行けるのかな……?」


 独り言のように漏れた声に、ルミナがふわりと前へ。

 ゆっくり、しかし迷いなく先へ進むよう促す。


 その時だった。


 ――ゴウン……。


 深海には似つかわしくない“低い共鳴音”が、足元から伝わってきた。


「……え?」


 海底の砂がわずかに揺れ、視界の奥――闇の向こうに、何かがあった。


 暗闇の中に、規則的な“線”が浮かぶ。

 自然物ではない。人工の、刻まれた文様。


「これって……建物……?」


 ナナミは息を呑む。


 海底の崖の縁に、半ば埋もれるようにして巨大な石造りの構造物が口を開けていた。

 柱には見たことのない古い文字。壁には海藻が絡んでいるが、崩れてもなお威厳がある。


 これは――昔語りにしか出てこないはずの、“古代文明”の痕跡。


 こんな深海に存在するなど、誰も信じない。

 世界にもアクア・ヘイブンにも記録はない。

 あったとしても、調査隊は生きて帰れない。


 ナナミの鼓動が跳ねる。


「ねぇ……ルミナ。もしかして……ここに何かあるの……?」


 ルミナは、金色の光を大きく明滅させた。

 今まででいちばん――はっきりとした“YES”。


 まるで、ここを目指していたと言わんばかりの力強さで。


 崩れた門の向こうは暗く、何が潜むか分からない。

 だが同時に、ナナミにとって何ががある可能性のある場所でもあった。


 深海の闇の中で、ナナミはごくりと喉を鳴らす。


「……行こう。ルミナ。

 ここなら……何か、見つかるかもしれない――」


 ルミナが柔らかな光を返す。

 二人の影が、古代遺跡の闇へと吸い込まれていった。



 ◆



 中は、外よりも静かだった。

 水音すら吸い込むような静寂。石柱は崩れ、壁には古い魔術紋のような刻みが走っている。

 ナナミは息を潜めて進むが――


 ――“音がない”。


 それが逆に不気味だった。


「……ルミナ、何か感じる?」


 返事の光が揺れた、一瞬。

 そのときだった。


 ――ザバァッ!!


 真横の暗がりから、水流が“逆流”した。


「っ……!」


 反射で体が動く。わずかに身を引いたその場所を、黒い影が唸りを上げて通り抜けた。


 エイ型の海魔。

 扁平な巨体が水を切り裂き、円盤のような歯を開いて再び迫る。


 ――早い!

 頭で考える余裕なんてない。


(でも……見える……!)


 水が揺れた。

 ほんの一瞬、海魔が動く“前”に水圧が変わり、微かな渦が肌を撫でた。


 次の瞬間、ナナミは自然と動いていた。


 魔力膜に流れる魔力がきゅっと締まり、水流に沿って身体が滑る。

 海魔の噛みつきが紙一重で空を切った。


「はぁっ、はぁっ……っ!」


 自分でも驚くほどの反応だった。

 だがエイ型は逃さない。真後ろから再び迫る。


 ――そのとき。


 ルミナが動く。


「ルミナ、だめ! 近づかないで!」


 止めるよりも早く、エイ型はルミナの動きに反応し、標的を切り替えた。

 その大きな口が、ルミナへ開く。


「いやっ……来ないで!!」


 ナナミの足が勝手に動いた。

 守らなきゃ――その一心で、トライデントを構える。


 海魔が加速する。

 水圧が弾けた瞬間――


「うああああっ!!」


 ナナミは水流の“隙間”へ身体を滑り込ませ、すれ違いざまに突き出す。


 ――ガシュッ!!!


 三叉が海魔の口元に深く突き刺さった。

 エイ型は大きく痙攣し、軌道を乱し、そのまま遺跡の石壁へ激突する。


 砂と石片が舞い、巨体はゆっくりと沈んでいった。そして海晶核を吐き出す。


「ぜ……はぁっ……!」


 腕が震える。足も震えていた。

 だけど――倒した。


 ナナミの肩に、金色の光がそっと触れた。


「ルミナ……ごめん。危なかった……守れた……よかった……」


 光がやわらかく明滅する。

 それはまるで「ありがとう」と言っているようだった。


「ルミナに守られるばかりじゃなくって、守りたい」

 ナナミはルミナを抱えて撫でる。


 抱えたルミナは僅かに発光して暖かかった。そしてナナミの成長を喜んでくれているようにも見えた気がした。


 ナナミは息を整えながら、エイ型海魔がいた奥を見つめる。


 ――そこには、崩れた石柱の向こうに

 “人の手が作った形の扉”

 が半ば埋もれて輝いていた。


「……これって……遺跡の、本当の入口?」


 ルミナが静かに光る。

 YESだ、と言っているように。


 ナナミはトライデントを握り直し、前へ一歩踏み出した。


「行こう。きっと……ここに、生き延びるための何かがある」


 金色の光と少女の影が、古代遺跡の深奥へゆっくりと消えていった――。



ご覧いただき、ありがとうございます!

公開三日目でございます。

作者名に記載している通りしばらく毎日更新を行います!

★★★★★次回11/21 20:00更新予定です★★★★★

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ハイファンタジー
― 新着の感想 ―
こんにちはー カワウソです♪ 2人(1匹?)の展開が凄くワクワクして、先が気になってきました。海を基本とした世界観も面白いです。(私とは真逆。。。) 読み続けます♪
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