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アビス・グランブルー 〜クラン追放された最底辺ダイヴァー、わたしはやめたくなかった〜  作者: ロートシルト@アビス・グランブルー、第四章も毎日20時更新!
第三章 アイアン級

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第五十二話 前線と後方、ふたつの戦場

 黒い触手がゆらぎ、海流に呑まれたように視界が陰った。


 大規模な戦いの中心──シルバー級がワン・アイドへ突撃したことで、大部分の海魔が前方に引き寄せられていく。


 だが後方には、まだ小型海魔が散開していた。


「ナナミ、右に三体来る!」

「任せて!」


 ナナミはアームガードで突進を受け流し、スピアーランスで的確に二体貫く。

 ニーナがその隙に背後の一体を切り裂き、撃破する。


「ホープさん、左にサージ!」

「見えてる!」


 ホープさんの両手槍が水を裂き──突進してきたサージ・オッターを迎撃するように突き刺さった。


「よし……この辺の小型はあと少しだ!」



 だが反対側では──アイアン級ダイヴァーが徐々に押され始めていた。


「うっ……! 毒が……っ」


「くっそ、数が多い……!」


 オーガ・カサゴが群れで襲いかかり、視界を乱すシェード・フィッシュが間断なく突進する。

 彼らは懸命に応戦していたが、徐々に魔力を消耗、また少なくないダメージを負っていた。


 その時──後方から再び、指揮が響く。


『負傷者は無理せず撤退しろ!

 治療班が船で待機してる!戻って手当を受けろ!!』


 アッシュさんの力強い指示だった。


「で、でも……!俺はまだ……!」

「無理だ!止血が追いついてねぇぞ!」

「ぐっ……すみません……っ!」


 不本意そうな表情のまま、数名のアイアン級が撤退のため浮上していく。


「撤退する人は気をつけて!」

「上まで持ちこたえて!」


 ナナミたちは周囲を警戒しながら、撤退者の周囲を固めて守った。


(……大丈夫、落ち着いて……私たちが守る……!)



 一方その頃、前線では。


「アイアン級の女の子でも頑張ってるなら……俺だって……!!」


「負けてられるかよ……!ネーレウスクランの底力ってやつ、見せてやる!!」


 ブロンズ級のネーレウスクラン所属の若手たちが、負傷者が下がったあとも踏みとどまり戦っていた。


 その姿を見て、少し後方から戦況を見ていたグレイスが静かに目を細める。


(ナナミちゃん……来てくれてよかった。

 あの子、もうアイアン級の枠には収まらないわね……)


 以前なら無理をしていた彼らが、仲間の撤退を尊重しつつも“自分の戦い”を見失っていない。

 その変化を目にし、ほんの少しだけ胸が温かくなる。


「グレイス、行くぞ!」


 バルバスが呼ぶ。

 その横にはアッシュも構えていた。


「ええ!」


 三人は一気に加速し、ワン・アイドへ突撃していく。



 やがて──小型海魔の姿はほとんど消え失せていた。


「よし……!殲滅できた……!」


 ナナミは大きく息を吸い直した。

 視界が開け、遠くで戦うシルバー級の姿がはっきり映る。


「せいッ!!」


 シルバー級のダイヴァーがワン・アイドの触手を斬りつける。

 だが──刃が弾かれ、火花のように水泡が散った。


「なんだこりゃ……岩みてぇだ……っ!!」


「皮膚が……硬すぎる……ッ!」


 攻撃が通らない。


 次の瞬間、ワン・アイドの巨大な触手が横一閃に振り払われた。


「わ──!」


「危ない!!」


 仲間に向かう触手。


 その軌道へ、ガンツが身体を投げ込むように突入した。


「うおおおおおッ!!」


 アームガードに魔力を纏わせ、全身で受け止める。


 ──だが。


 ギィィィィンッ!!


 轟音と共にガンツの身体ごと水が弾け飛び、海中を大きく後退させられた。


「ガンツさん!!」


「……っぐ……っ、なんて……威力だ……!」


 吹き飛ばされたが、身体は無事。

 しかしその衝撃は、確かに“格”が違った。



 その時。


「……あっ!」


 ナナミは、遠くの戦線に視線を向けていた。


 そこでは──


 バルバスとアッシュが、同時にワン・アイドへ攻撃を仕掛けようと加速しているところだった。


 巨大な海魔へ向かっていくふたりの背中。


 海が震えるほどの衝突が──始まろうとしていた。


──続く。

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