第五十話 青き戦場
海に身を投げた瞬間、冷たい水流が全身を撫でた。
視界は青く深く沈み、周囲には無数の気泡が尾を引いて落ちていく。
私の少し前をホープさんが泳ぎ、左右にはニーナさんと私。
三人で自然と、前衛ホープ・左右にナナミとニーナの陣形ができていた。
(ナナミ。自分の距離を保って。焦らないように)
(うん……!)
腕のアームガードを握り直し、潜海証に視線を落とす。
──深度38……39……40。
「あと半分……っ」
その瞬間だった。
前方の暗がりが、ぞわりと揺れた。
黒い影が、幾重にも折り重なるように──こちらへ向かって来る。
「……っ、あれ……全部……海魔……!?」
思わず声が震えた。
数は──ざっと50。
「オーガ・カサゴが多数!」
「シェード・フィッシュも来てる!」
「サージ・オッターまで混じってやがるぞ!気をつけろ!」
周囲のダイヴァーがざわつく。
オーガ・カサゴ──毒をもつ小型の厄介者。
シェード・フィッシュ──動きが速くて、視界をかき乱す魚の海魔。
サージ・オッター──突進を繰り出す中型種。ブロンズ級でも危険だと噂の相手。
海の奥で膨れ上がるような恐怖に、私は喉が鳴った。
(凄い数……怖い……)
だが、次の瞬間──
海が震えるほどの重く響く声が届いた。
『全隊、聞けェッ!!!』
バルバスさんの魔力を帯びた声だった。
『サージ・オッターはブロンズ級が優先して当たれ!
各隊、隊列を崩すな! 飲み込まれるぞ!』
その声だけで、胸の奥の恐怖が少しだけ薄くなる。
(ナナミ。あなたなら出来るわ)
アストラルの囁きが、心臓の奥に灯をともした。
「……うん。行く!」
「来るぞ!」
ホープさんが槍を構え前へ出る。
「ナナミ、右から来るシェード任せて!」
「了解ッ!」
前衛ホープさんの両脇で、私とニーナさんが散開した。
群れの先頭──影が牙を剥き、迫る。
「はあぁッ!!」
私はスピアーランスを握り、一撃でオーガ・カサゴを貫いた。
手応えは軽いが、油断はできない。
「ナイス!ナナミ!」
ニーナさんが横で短刀を振るい、シェード・フィッシュを二体連続で切り裂いた。
「まだ来るぞッ!」
ホープさんの声が響く。
彼は迫るサージ・オッターの突進を紙一重でかわし──
両手槍で交差するように、その胸元を刺し貫いた。
サージ・オッターが崩れ海晶核を吐き出す。
「よし……!」
その戦いぶりを見ていた後方のガンツさんたち。
「……あの子、やる」
ルキアさんが感心したように目を細める。
「ナナミちゃんの動きに、ウチのホープとニーナも触発されていい動きしてるな」
ガンツさんも笑みを漏らした。
◆
戦闘は激しく続く。
周囲では経験の浅いアイアン級ダイヴァーが毒持ちオーガ・カサゴに囲まれ悲鳴をあげていた。
「た、助けて──!」
「あっ……!」
私はすぐさま身体を反転させ、スピアーランスを構える。
「大丈夫っ……行きます!」
鋭く踏み込んで、オーガ・カサゴを連続で三体撃破する。
「あ、ありがとう……っ!」
「大丈夫!落ち着いてください!」
助けたダイヴァーが震えながらうなずく。
(ナナミ。よくやったわ)
(うん……!)
◆
そして──
最後の一体を撃破した。
第一波、約50体。
全て撃破。
「はぁ……っ、はぁ……っ」
「やったぞ!全員無事だ!」
「次が来る前に海晶核を確保だ!」
周りのダイヴァーは息をあげている者もそれなりに居た。
「ナナミちゃん、すごく活躍してた……!」
「ニーナ、ナナミちゃん、まだ行けるか?」
「はい……!」
三人で呼吸を整えながら隊列を整え進むと──
暗闇の奥で、何かが大きく蠢いた。
海流が強く揺れ、無数の影が形を成す。
「……っ、また……!」
「第二波だ!!」
「サージ・オッターが増えてるぞ!」
「全員、構えろーッ!!」
大規模な第二波が、こちらへ迫り始めていた──。
──続く。




