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アビス・グランブルー 〜クラン追放された最底辺ダイヴァー、わたしはやめたくなかった〜  作者: ロートシルト@アビス・グランブルー、第四章も毎日20時更新!
第三章 アイアン級

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第四十九話 仇の海へ

 《ワン・アイド迎撃部隊》の一角で、ひときわ大きな影がこちらに歩いてくるのが見えた。


 髭をたくわえ、精悍な顔立ち。


 年は四十前後だろうか。


 胸板も腕も厚く、そして──首元には眩しい光を放つ ゴールド級の潜海証。


(……この人……)


 近づくだけで、空気が変わった気がした。


「……久しぶりだな、グレイス」


 重く落ち着いた声だった。


 グレイスさんは一瞬だけ肩を強張らせ、

 それから静かに微笑んだ。


「……お久しぶりです、バルバスさん。

 お変わりないようで」


 バルバス──

 《ネーレウス》のクランマスター。


 その隣には、長めの前髪をかき上げ、

 鋭い目をした三十代ほどの男性が立っていた。

 こちらも首にはゴールドの潜海証。


「アッシュさんも……お久しぶりです」


「おう、グレイス。ガンツにルキアも。

 無事で良かったよ」


 アッシュ──

 ネーレウスのサブマスターで、

 かつてのグレイスさんの直属の上司でもあるらしい。



「潮騒の宴が揃って来てくれるとはな……来るとは思ってたが、本当に助かる」


 バルバスが腕を組む。


「発見者のバニッシュ・クランが動けない以上、

 この数の戦力は大きい」


「……動けない?」

 グレイスさんが眉を寄せた。


「エクセイルさんは?」

 ガンツさんも思わず聞き返す。


 アッシュは表情を曇らせた。


「バニッシュのマスター・エクセイルは、

 深海ダイヴに挑んで失敗した。

 助かったが……重傷で療養中だ」


「……っ!」

 

 かつてナナミを追放したその名を聞き、ナナミは胸が跳ねた。


「ワン・アイドを発見したメンバーもな。

 ヤツの一撃で魔力膜を全損し、命からがら満身創痍で帰還したらしい。

 今回は出撃不可能だ」


 私は心の中でそっと胸を撫で下ろした。


(……良かった。向こうと顔を合わせずに済む……)


 以前のバニッシュクランとの絡みが頭をよぎり、

 ほっとしてしまう自分がいた。


(ナナミ……気にしなくていいわ。あなたは悪くないのよ)


(……うん。ありがとう、アストラル)



 グレイスさんは気持ちを切り替えるように一歩前へ進む。


「アッシュさん、作戦は?」


「ああ。説明する」


 アッシュは手元のメモをめくりながら、静かに口を開いた。


「ワン・アイドは現在、X18、Y24ほどの海域。

 推定深度80前後だ」


 周囲のダイヴァーたちの表情が一気に引き締まる。


「そこまで船で移動する。

 ポイントに着いたら全員で一斉にダイヴだ」


 海図が広げられ、海域に赤い印がつけられる。


「ただし──周囲に大規模な小型海魔の群れも確認されている。

 ワン・アイドの“呼び寄せ”だろう。

 まずは先発隊として、ブロンズ級以下のダイヴァーが隊を組み、道を開く」


 ニーナさんとホープさんが小さく頷く。


「ゴールド・シルバー級は極力、魔力を温存。

 最後の“本隊突入”のために力を残せ。

 特にゴールド級のグレイスとアッシュ、俺の三人がキーだ。

 ルートが確保されたら、ゴールド・シルバー級で一気にワン・アイドへ突撃。残った目を潰し、視界を奪う」

 

 最後にバルバスが補足する。

 

「戦利品や海晶核は全員で回収、後で一括精算後にランク別で分配だ」


「合理的ね。賛成だわ」

 グレイスさんが即答する。


 ガンツさんも腕を組んでうなずいた。

 

「潮騒の宴の中では……

 ブロンズ級のホープ、ニーナは先発だな。

 ナナミちゃんは……アイアン級だから、特に無理するなよ」


「……はい」


「危なくなったらすぐ引け。

 ホープとニーナも、お前たち二人がナナミちゃんを見てやってくれ」


「任せて!」「了解!」


(ナナミ。気負うことはないわ。

 あなたはあなたの役割を果たせばいいの)


(うん……!)



 ほどなくして、号令が響き渡る。


「全隊──乗船開始!!」


 港に並ぶ大型船へダイヴァーたちが一斉に乗り込んでいく。


 私たち潮騒の宴も乗船し、

 エンジンが唸りを上げると、船はゆっくりと沖へと進み出した。


 重い海風が吹き抜け、

 デッキでは武器の最終確認をする者、

 深呼吸をして集中する者など、

 誰もが戦いに備えていた。


「ナナミちゃん、緊張してる?」

 ニーナさんが肩をつついてくる。


「……すこしだけ」


「大丈夫だ。ナナミちゃんならやれる」

 ホープさんが笑う。


「……必要なら、援護する」

 ルキアさんも静かに言った。


 グレイスさんはそんな私たちを安心させるように微笑む。


「ナナミちゃん。怖がらなくていいわ。

 私たちがついてるもの」


(ナナミ。大丈夫よ。

 あなたは昨日の戦いで、彼らに認められたの)


(……ありがとう、アストラル)



「全員──ダイヴ準備ッ!!」


 アッシュの声がデッキ全体に響く。


 ナナミは左腕にアームガードを装着し武器を構える──。


 船が指定ポイントに到達すると、

 海面は暗く沈み、

 深海へ続く黒い縦穴のように不気味な輝きを放っていた。


「行くぞッ!!」


 号令とともに、次々とダイヴァーが海へ飛び込んでいく。


 私たちも、縁に立つ。


「……よし。

 ナナミちゃん、行きましょう!」


「はいっ!」


 私は強く息を吸い──


 海へと身を躍らせた。


──続く。

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