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アビス・グランブルー 〜クラン追放された最底辺ダイヴァー、わたしはやめたくなかった〜  作者: ロートシルト@アビス・グランブルー、第四章も毎日20時更新!
第三章 アイアン級

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第四十八話 潮騒の宴の過去と“隻眼の海魔”

 ギルドを出て、私たちは港へ向かって歩き出した。


 朝の潮風が頬に触れる。

 けれど胸の奥には、これから向かう戦いへの緊張がざわついていた。


「……あの、グレイスさん」


「どうしたの、ナナミちゃん?」


 歩きながら、私は思い切って聞いた。


「グレイスさんたち……どうして《ワン・アイド》の情報を、もう知っているんですか……?」


 その瞬間、先頭を歩いていたガンツさんが足を止めた。

 ルキアさんもチラリとこちらを見たが、すぐ前へ向き直る。


 グレイスさんは少しだけ目を伏せ、ゆっくりと息をついた。


「……ナナミちゃん。

 あなたにも知っておいてほしいことがあるの」



「まず、ネームド海魔っていうのは──」


 説明を始めたのはホープさんだった。


「同じ種の海魔の中でも、別格に強い“特異個体”のこと。

 普通の海魔の数倍〜十数倍以上の耐久や強さを持ってて、

 場合によっちゃ固有の能力を持ってるものもいる」


「海の生態系の『変異種』ってやつね!」ニーナさんが続ける。


「討伐すると特別な素材が出やすいし、代わりにめちゃくちゃ危険!」


 ネームド海魔……そんな存在がいるなんて知らなかった。


(ナナミ、私たちが昨日相手にした海魔とは“質”が違うわ。

 普通のアイアン級が挑める相手じゃない……)


 アストラルの声が慎重だった。


私はごくりと唾を飲み込む。


「じゃあ……ワン・アイドは、その……特別に強い海魔……?」


「そうよ」


 グレイスさんが静かに頷いた。


「ワン・アイドは、コロッサル・スクイードという大型海魔。

 元々大きい種の海魔だけど……それが更に巨体。あとは──“片目を潰されている”の」


 私は目を瞬いた。


「片目……?」


「ええ。その隻眼のせいで《ワン・アイド》と呼ばれるようになったわ」



 そこでガンツさんが前を向いたまま言った。


「グレイス、あれも聞いておいてもらった方がいい」


「ガンツ……」


「一緒に潜るなら、隠すべきじゃない。

 舐めてかかって死んじまったら、後悔するからな」


 強面だけど、声は優しかった。


 グレイスさんは少し迷ってから──

 覚悟を決めたように私へ向き直った。


「……ナナミちゃん。

 私たち“潮騒の宴”は、もともと違うクランに所属していたの」


「え……?」


「《ネーレウス》ってクランよ。聞いたことあるでしょ?」


「……っ!?ある、あります!」


 アクア・ヘイヴンで二大クランと呼ばれる、

 バニッシュクランと肩を並べる大所帯。


 その名前を私が知らないはずがない。


「私たちは全員、そこで潜っていたの」


「その時よ、ワン・アイドと初めて遭遇したのは」


 ルキアさんがぽつりと言う。

 その表情は、いつもよりさらに硬かった。



 グレイスさんは少し空を仰ぎ、痛みを噛みしめるように続けた。


「……私たちは、ダイヴ中にワン・アイドに襲われて……。

 太刀打ちできずクラン全員で必死に逃げたけど──」


 言葉が震えていた。


「私の……親友のダイヴァーが、

 私たちを逃がすために囮になって……最後に、ワン・アイドの片目を槍で刺し貫いたの」


 胸の奥が締め付けられる。


 グレイスさんは、唇を噛みしめながら言った。


「その一撃のおかげで私たちは皆、生きて帰れた。

 でも……その子は、帰ってこなかった」


「……」


「それからよ。

 私たちがネーレウスを離れたのは」


 ガンツさんが重い声で言う。


「クランはワン・アイドの捜索を許さなかった。

 “仇討ちなんて忘れろ。功績を取れ”ってな。

 だが俺たちは仲間の仇を置いて功績なんざ欲しくなかった」


「私たちは……仇を討ちたかったの。だからクランを離れた」

 グレイスさんの声がかすれた。


「でも、あの時の私たちでは……勝てなかった」


(ナナミ……彼らの痛みが伝わってくるわね)


(……うん……)



 そして港が見えてきた頃──

 私はぎゅっと自分の胸の前で拳を握った。


「グレイスさん……」


 彼女が振り向く。


「ワン・アイド……倒しましょう」


 グレイスさんの瞳がかすかに揺れた。


「あなたの親友の……仇を」


 その言葉に、彼女の肩が震え──

 絞り出すように笑った。


「……ありがとう、ナナミちゃん」



 やがて港に到着すると──

 その光景に、私は息を呑んだ。


「わっ……!」


 大型船がずらりと並び、

 その周囲にはダイヴァーたちが大量に集まっていた。


 全員、潜海装備を整え、

 武器の点検をし、

 仲間と作戦を確認している。


 ざっと見渡しただけで──


50名以上。


 アクア・ヘイヴンを拠点とする、数あるクランや

 クラン未所属の野良のダイヴァーまで、一気に集結しているのが分かった。


「すっご……!こんなに集まるんだ……!」

 ニーナさんが感嘆の声を上げる。


「まあ、ネームド海魔だからな」

 ホープさんが肩をすくめる。


「おい、潮騒の宴だ!」

「グレイスさんたち来たぞ!」


 周囲のダイヴァーがざわめき、こちらを振り返る。


 その注目を浴びながら──

 私は深呼吸した。


(ナナミ。覚悟はできてる?)


「うん……行くよ、アストラル」


 こうして私たちは、

 《ワン・アイド迎撃部隊》へと合流した。


──続く。

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