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アビス・グランブルー 〜クラン追放された最底辺ダイヴァー、わたしはやめたくなかった〜  作者: ロートシルト@アビス・グランブルー、第四章も毎日20時更新!
第三章 アイアン級

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第四十七話 ナナミの決意

 張り紙を見つめたまま、私はそっと息を呑んだ。


《緊急ミッション:ネームド海魔“ワン・アイド”迎撃》


(……ワン・アイド。聞いたことがない……)


 背中をひやりと汗が伝う。

 周囲のダイヴァーたちは深刻な顔でざわつき、誰もが緊張の色を浮かべていた。


 その時──


「ナナミさん」


「……っ!」


 すぐ後ろから声がして、肩が跳ねた。

 振り返ると、受付嬢ミストさんが心配そうに眉を寄せていた。


「アイアン級のナナミさんには……今日の海は危険です。

 “ワン・アイド”は、私たち受付でも脅威ランクの高い海魔として扱われていて……。

 だから今日は潜らない方が……」


「あ、あの……私は──」


 言葉に迷いかけた、その瞬間。


「……ナナミちゃん!」


「おっ、いた!」


「おはよ〜!」


 賑やかな声が重なり、私は思わず振り向いた。


 そこには──

 海の潮騒しおさいクラン全員、五人が勢揃いしていた。


 グレイスさん、ホープさん、ニーナさん。


 そして──


 がっしりした体格で優しげな瞳の男性ダイヴァー、

 大きなアームガードを装着し首にはシルバー級の潜海証。


 無表情で静かな雰囲気。長髪の女性ダイヴァー、

 背中には大きな海中ボウガンを背負っている。隣の男性と同じくシルバー級の潜海証を提げている。


 初めて見る二人に、思わず背筋が伸びた。


 「このイカつい男性はガンツ、仏頂面の女性はルキアよ。どちらもウチのシルバー級ダイヴァー」


 グレイスさんが初対面の二人を紹介してくれた。


「ガンツだ!よろしくな!ナナミちゃん!」

「よろしく……ニーナが可愛いって言ってた子ね……」


 ニーナが’’ぼっ’’と顔を紅くした。


「ちょっとルキアさーん!」


 緊張感が溢れたギルド内の雰囲気が少し和らいだ。


 


 

「さて。ナナミちゃん、依頼書……見たのね」


 グレイスさんが穏やかに歩み寄る。

 でもその声色は、どこか硬かった。


「アイアン級のあなたには、ネームド海魔の相手はまだ早いわ。

 ミストちゃんの言うとおり……今日は海に潜らない方がいい」


「……っ」


 その真剣さに胸が苦しくなる。


 だけど──


「いやいやグレイスさん、それは違うって!」


 勢いよくニーナさんが割り込んできた。


「ナナミちゃんはアイアン級だけど、実力はぜっったい私より上だよ!

 昨日だって私の背後の海魔、ふつうに一瞬で倒してたし!」


「そうそう!」ホープさんも腕を組んでうなずく。


「海魔の接近に、グレイスさんより早く気づいてたんだよね?

 一人で二体瞬殺したの……俺、気付いてすらいなかったぞ! ガチで強いって!」


「ちょ、ちょっと二人とも……!」


 グレイスさんは言い返そうとして──

 昨日のナナミの動きを思い出したのか、言葉を飲み込んでしまった。


(ナナミ……褒められてるわよ。もっと胸を張ってもいいのよ?)


「……でも……」


 グレイスさんの迷いを断つように、ガンツさんが前へ出た。


「その腕が本物なら、戦力としては十分だ。

 ワン・アイドは広範囲に小型海魔を呼ぶ。

 戦える人数が多ければ多いほど助かる」


 低く落ち着いた声だった。


 続いてルキアさんが短く言う。


「……必要。

 ワン・アイド……増援、多い。

 処理、速い方がいい」


 簡潔な言葉だけど、芯があった。


 


 

 グレイスさんはしばらく黙った後──

 私の目を真っ直ぐに見つめた。


「……ナナミちゃん。

 もし良ければ、私たちに力を貸してくれないかしら?」


 言葉は丁寧だけど、その奥に本気の信頼があった。


「ただ……危険も伴うわ。私達の力をもってしても、敵わないかもしれない。

 あなたはまだアイアン級だし、無理をしてほしくはないの。

 断ってもいい。怖いと思うなら、それでいいのよ」


 胸がきゅっと熱くなる。


(ナナミ。あなたには、少し早い相手かもしれない。

 ……でも、あなたが望むなら私は止めないわ。

 行くなら、覚悟だけはしっかりしなさい)


「アストラル……」


(あなたが決めなさい。彼らを助けたいと思うなら──私も力になる)


 静かな声だけど、強かった。



 私はグレイスさん、ホープさん、ニーナさん、

 そして初めて会ったガンツさんとルキアさんの顔を順に見た。


 みんな心配してくれて。

 仲間として扱ってくれて。


 胸の奥がじんと熱くなり、私はそっと拳を握る。


「……わたし……行きたいです」


 自然と、言葉がこぼれた。


「昨日、一緒に潜って……

 グレイスさんも、ニーナさんも、ホープさんも、すごく優しくて……。

 みんなの力になりたいって……思いました」


 息を吸って──はっきりと言う。


「ワン・アイドの討伐……私にも、行かせてください!」


 その瞬間──


「よっしゃあーーー!!」

「ナナミちゃーん!!」

「助かる!」


 ニーナさんとホープさんが飛び跳ね、

 ガンツさんとルキアさんは静かに頷き、

 グレイスさんは、ほっとしたように笑った。


「……ありがとう、ナナミちゃん。

 一緒に来てくれるの、心強いわ」


(ふふ。さあ行きましょう、ナナミ。

 嵐は来るけれど……あなたはもう一人じゃない)


 胸に小さな鼓動が灯った。


 横で成り行きを見守っていたミストさんが「こほん」と言いながら言葉を挟む。


「ゴールド級を擁する’’海の潮騒’’クランと同行ということであれば……ナナミさん、本当に気を付けてくださいね……」


 ミストさんが心配そうに、まじまじとわたしをみつめる。


 「グレイスさんは聞いてると思いますが……先ほど現地に、別のクラン’’ネーレウス’’の皆さんも向かっています。共闘の上で撃退、可能であれば討伐をお願いいたします」


 巨大海魔ワン・アイド迎撃──

 その戦いへ、私は“仲間”と共に向かう。


──続く。

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